授業研究:「大名行列」の授業ビデオを使って

     (平成2年6月14日 筑波大学附属小学校)   有田和正先生

第3回有田先生と勉強する会  1997年(H9年)1月5日(日) 

                               寒河江市民文化センター


<進行係りから>
 有田先生の授業を直接筑波で見たことのある方手を上げて下さい。(6名)はい,ありがとうございます。この後,ビデオを平成2年度の大名行列,筑波での授業を流します。その前に進め方についてお願い致します。ビデオを流し始めた時に,もし,その場で質問がある場合は,すぐ挙手をお願い致します。その場でビデオを止めて,ご質問を有田先生にして頂きます。子供と同じように手を上げるのは,かなり恐怖がありますので,先生方の中にも,子供の気持ちがこの場で実感できると思います。もし手を上げて止めた時に,また更にそれについて質問がある場合は,どんどん手を上げて続けていって下さい。質問が出ない場合ですけど,こちらの方で15分刻みで止めるつもりでおります。15分,15分,15分。ですから,都合真ん中で2回ビデオを止めるつもりでおります。その段階で質問のあるなしに関わらず,ビデオを止めてお話をする時間をとりたいと思います。また,質問が多くて時間的に最後までビデオを流すことができないような場合,質問をある程度時間を区切って行うことになると思います。ですから,できるだけ,早い時間に止めた方が,ゆったりと聞くことができると思います。
 では,この授業について,最初ビデオを見る前に,有田先生の方から授業の視点についてお話して頂いて,その後ビデオを流したいと思います。有田先生,お願い致します。


 どうしてこの大名行列を選んだかっていう質問が,実行委員の方からあったのです。私は,随分たくさんのビデオを,持っているわけです。自分が今までやって来た中で最高の授業というのは,この大名行列に登場した子供達が,2月に行った戦争の授業です。小学校で自分が行った授業では,それが一番いいかなあと思います。でも,その授業は,「追試不可能だ。」とみなさんから言われまして,そういう追試不可能な内容ではまずいんじゃないかということで,追試可能なものがいいだろうと考えました。 
 2番目の理由はですねえ,このビデオが商品でありまして,商売人,授業を撮るプロが撮って編集した映像ですから,映像が非常に明るくて,鮮明で見やすいということがあります。
  3番目の理由として,私が社会科の授業で理想としていたものに近い。まあ,だいたいこういう授業をしたいと思ってした,そういうことがある程度実現した授業であるということ。そういうことが3番目に上げられることだと思います。
 それから,3番目の中に入っていますが,1枚の資料で江戸時代の授業ができるということを示した内容なんです。ですから,この時間に27の「はてな」が出てきます。その27のうちの26は,子供達がこの時間で解決してしまいます。1個だけ残るんですね。それから後まだ続くんですけども,指導案は先生方のお手元の方に2日目の分まで配られていると思いますが,2日目の授業は,見えない身分を見えるようにするということで,これは1つ同和教育の視点になるかと思うんです。身分差があって見えないんです。それを,着物とか言葉づかいとか,住んでる場所とかですね,そういうことで身分が違うということを示そうとしたのが身分差別ですね。そういうことは2時間目の授業になっております。今日行われますのは,大名行列の絵一枚の中に,江戸時代で小学校で学習する内容が全て含まれているということ。それから,私自身がこの資料を使って,中学,高校,大学,それから一般の方々,先生方という様に5種類ぐらい授業をやってみたんです。この資料を使って。いろんなデ-タ-を私が持っているということで,それもおもしろいかなあと考えます。それから,最後に,この子達は,4・5・6年と持ってきた3年目の6月であります。だから,2年間みっちり鍛えてきた子供です。ユ-モアが非常にあるんじゃないかと思います。ここに持ってきたのは,岡崎和美という先生が,鎌倉の先生ですが,有田和正のユ-モア対応の技術ということで,この中にユ-モアのある対応,子供と私のですね,ユ-モアのある対応が21あると。彼によれば。それ以外に先生方も見つけることがあると思いますが,岡崎先生はそういう分析で,ユ-モアがこの授業の中にどれだけあるかという観点でこの授業を分析したと。いろんな分析の仕方があろうかと思います。6年生の江戸時代の授業を,資料1枚でやれるかどうかということ。子供達の学習技能がどこまで子供達に育っているか。特に,事典類をこのクラスの子供達は84種類の資料を持っているんです。それは,授業場面に出てくるんです。机の上に積んであります。その積んである資料を使いながら授業をやっていきます。つまり,その前の日までは大仏の授業をやっていまして,この日突然,大名行列の授業をやりました。第一時であります。だから,子供達は,まさか江戸時代にくるとは夢にも思っていない。前の日は大仏の授業をやって。さっき話しましたように,参観のグル-プは紙一重をどこまでやるかと見ていて,明日は大仏さんの授業をやるんだなあ。「大」の字だけはあっていた。そうしたら大名行列ねえ。まっ,そういうことで,紙一重ができなかったと思うんですが,その辺を見て頂いたらいいかなあと思います。
<ビデオ映写>
      ☆「 」は、会場からの質問
     ★『 』は、有田先生
      斜体はビデオ内


1 .3つ以上「はてな」をさがす
『じゃあ始めますよ。』
☆「さっき,有田先生が,80何種類資料を子供達が持っていると言いましたが,必ず子供達が持っている,共通して持っている資料はどのくらいあるのでしょうか?」
★『社会科資料集。教科書。小学校社会科用語辞典(旺文社)この3つはみんな持ってます。そのくらいです。』
<ビデオ  大名行列の一枚の絵を提示>
『今日は,これをやろうと思います。(プリントを配布)』
『色つけるの間に合わないので,今日先生がつけてきました。(黒板に掲示)拍手は?(拍手)はい,何時代ですか?「江戸時代!」どうしてわかる?「大名行列」大名行列やってたら江戸時代。間違いない。あ-そうですが。江戸時代です。それでは,3つ以上はてな?ノ-トに書きます。見つからない人は,元気よく立ちましょう。』
☆「今,子供達がはてなを3つ以上さがしているんですけども,私も似たようなことをやっているんです。そういう時に,私だったら必ず机間指導というか回って行って,どの子がどういうはてなを出しているかというのをチェックしながら,回ったりとかするんです。どの子からかけて行こうかなとか,こういうふうにもっていこうなんて。その時になるべく考えたりするんです。この時,有田先生はどのようにしていらっしゃいますか?何か,テ-プが編集されているので,回ったのかどうかということが分からないものですから。」
★『回れないんですよ。人数が多くてね。幅を狭く, 600か 700いるわけですね。その間を通れないくらい,ず~っとつめちゃって,回るに回れない。第一時ですから,どの子がどういう反応をするか分かりませんわね。出たとこ勝負ですね。』
☆「出たとこ勝負は分かったんですが,子供達がこういうはてなを出すんじゃないかという予想は‥‥。」
★『それは,もう,大体予想はつきますね。』


2. 「はてな?」は予測しているか
☆「これから授業を進めて行くわけですけども,子供達から20いくつはてなが出たという話でしたけども,あれは全部有田先生が予想されていた中に含まれていたのですか?」
★『私が予測した範囲に全て入っています。私の予測を越えるはてなは1こもありませんでした。』


☆「あの時先生が予測されていたはてなは,大体いくつくらい?」
★『その時ですか。12,13は出ると思っていましたが,20いくつも出るとは思いませんでしたね。26出ました。27個目は私が出したんです。子供が出した問題全部解いちゃったから,これじゃあ授業が終わっちまうから,最後私が難しい問題投げかけた訳ですね。授業の指導案にもありますように,江戸時代の全部にわたるんじゃなくて,初めの方かと思っていたら,もうとにかく江戸の後半に関わることが全て出てきたもんですから,それは私は考えてはいましたけど,そこまでくるとは思っていなかったんです。そういう意味ではちょっと予測を越えたと言えば越えた。私が予測していない「はてな」はなかった。』
☆「はい,分かりました。」
<ビデオ>
『4つになってもいいんだよ。5つになってもいいんだよ。‥‥‥はい。』
「何であんなにすごく長い行列を作ったんですか?それと,どこからどこまで行くのか?それと,この長い行列を使っている人はだれかかな?」
『はは~なるほど。』
「これは,どこの地方を舞台にしてかいた絵か?」
『どこの地方の?大名はどこの人かっていうの?』
「頭を下げて座っている人は,どれくらいの身分の人か?」
『どういう身分か?これ(座っている人)の方が高いんでしょう?』         
「低いと思います。」
『頭は低いけども,身分は高い。』
「一番前を歩いている人よりも身分は低いと思います。」
『はい,そうですか。』
「前から2番目と3番目の人が持っている長い,上にボンボンみたいのがついているのは,何ですか?」
『これですか?これ?(はい)掃除道具ですよ。』
「えっ?」「じゃあモップ持ってるんだ。」
「掃除道具なんかじゃ持ってあるかないの‥‥‥‥変ですよ。」
『納得した?』
「え?しませんよ。」
『だって,掃除道具以外何がある?』
「何か,目印みたいな?」
『えっ?途中にびわか何かなっていたら,とる?』
「この大名行列は何mぐらい続いているか?あと,この大名行列には何人くらいいるのか?」
『長さね。ということは,結局,これは,こう言ったらいいんだな。人数,これが結局長さになる。(板書)こういうことだな。』
「あと,かごの中にいるのは誰なのか?」
『あっ,これ,大体かごに入れるのは,動物か何かでしょう。』


3 .どんな「はてな?」をねりあげるのか
☆「いろんなはてなが出る訳なんですが,例えばあの資料から読み取れるものもあれば,例えば解決不可能な,これはどの地方かとかっていうような,そういうものもありました。子供がたくさん出す中で,この後もやりとり続くんだろうと思いますけども,先生が黒板にお書きになる積み上げるはてなと,冗談で笑って終わしちゃうものとある訳ですね。子供はそれに乗っては来てますが,実際先生が扱っていらっしゃるのは,やはり自分の意図に添ったものを取り上げてやっていらっしゃると思う訳です。私がよく失敗するのは,いろんな出てきた中から,扱いを同じにしてしまって,どうにもならなくなるところがあるんですね。そこに先生の裏技が絶対あると思うんですけども,例えばさっきモップということで終わっちゃったんですが,例えばあれなんかは,先生がさっきおっしゃった20いくつ出てきたという,積極的な意味でのはてなの中の1つに実際カウントされているんですか?」
★『入っていません。私が黒板に取り上げていく内容が27で,今言ったように,冗談めかして終わったものが,そういうのが圧倒的に多いですね。子供に全部聞いたら 150くらいあったそうですね。でも,僕が取り上げたものは26ですね。今,ものすごく鋭い指摘なんです。私が取り上げていない方が圧倒的に多い訳ですよ。それをどういう観点でやっているかというと,それを調べたら,江戸時代が分かりやすいというものに限定してやっているんですね。モップが分かったって,どうってことないものですから,あれは目印ぐらいでしかない訳ですから,ああいうのは取り上げる必要がない。私のフィルタ-で,これは発展可能性があると思われるものをとっていきますね。難しいですよね,先生おっしゃるように。
 全部書いたら黒板に書き切れません。2つしか黒板がない。しかも書きにくいね,ぐらぐらして,今にもひっくり返りそうな黒板です。こう捕まえて書いていたんですけども,あれがもし大きい黒板があったとしても,やっぱり全部は書かないと思います。次へ発展しないような問題,こういうのは先生が取り上げないような問題はだめなんだと子供に気づかせるということもあるんです。そういう意図も。でも,それで先生がおっしゃるように,それでぺちゃんとなる子もいますよね。そういう子がいなくなったから,そういうふうにやっているんですよ。2年間で,そういうのは淘汰されてきましたから,もう,私がとりあげるかとりあげないか考えなしに,つまらん問題いっぱい出てきますから,ごらんになっていただきたいと思います。』


☆「関連してなんですけども,最初から2番目の女の子が,座っている人の身分はどうなのかといのを出したんですが,このビデオの後半部分では士農工商までいってますけど……。」
★『身分はですね,全部出てくるんですよ。ああいう形でない形で出てくるもんですから,あれはかからない。あれは身分がメインですから,もっときちっとした形の「はてな」にして出てきますから。そういう経過の上でやっています。』


4. 大名行列と参勤交代は同じか

<ビデオ>
「その人数って言うのは,この参勤交代で‥‥‥。」
『今,何て言った?』
「参勤交代。」
『参勤交代とは,何ですか?』
「大名が一年ごとに江戸に住む義務。1635年,将軍家光の武家諸法度で‥‥‥。」『それが大名行列じゃない。
「だから,参勤交代で国もとに帰ったり,江戸に戻ったりするので,大名行列だけど,人数っていうのは,その大名の石高によって行列の人数が決められていた。」
『石高?おもしろいことを言ったな。(板書)石高。これ何ぞや?もう1つおもしろいことを言ったな,何て言ったのかなあ?』
「参勤交代。」                           

  『参勤交代(板書)  (参勤交代と大名行列を指示して)同じですか?』
「はてななんだけど,1つだけなんだけど,なぜ途中の1人が,この絵に書いてあるんだけど,なぜ途中の1人だけが馬に乗っているか?」
『馬に乗っている人いる?あ-ね。足が悪かったんじゃないかな?』
「行列の中に女の人はいないかということ。」
「言われた~」
『は~おもしろいねえ。あなたは,どう思う?』
「うんとね,多分いないと思う。」
『多分いない!』
「長い時間歩く訳だから,女の人がいたら足手まといになっちゃうから。」
『でも,このクラスは女子の方が圧倒的に強いなあ。』
「あと,行列の順番は決まっているかということ。」
『女の人がいたか?(板書)  足手まとい?今は男が足手まといです。』
「この大名行列には,どのくらいの費用がかかっているか。」
『なるほど。費用!』
「ここにいる人は,何才から何才までかっていうのと,あと大根みたいのは何なのかっていうのと‥‥‥。」
『どれ?これか?』
「赤いやつ。あと,それと,前の人が持っている箱は何なのか?」
『箱か‥‥‥。』
「大根みたいのは,かさだと思うんですけど,何でかさは4本しかないのか。」
『かさ?なるほどかさねえ‥‥。」
「これは参勤交代なんだから,藩主がいる訳でしょ,この中に。その藩主は,何藩の,どこから来た,何という名前の藩主かということ。」
『あっそう,じゃあ,中村君,先生が質問するけども,大名の中に何か種類があったでしょう。』
「はい,御三家とか?あっ譜代と外様と親藩。」
『これ,どれなの?』                     
「えっと,それは,外様だと思います。」
『分かりません。ごまかしてます。』
「さっき,磯野さんが,女がいたかというのだけど,社会科事典の 306ペ-ジと 307ペ-ジの参勤交代というところに,地方に住んでいる大名を一定期間江戸に勤務させたこと。幕府の大名支配政策の1つ。家光の時,武家諸法度の改正で制度化された。大名は国もとに1年いると,次の1年は江戸に住み,大名の妻や子供は,幕府の人質としてずっと江戸に住むと書いてあるから,だからその中には女の人はいない。」
『いない。もう答えでちゃった。これはおもしろいですね。これは人質であった。(板書)』


5.「はてな?」を出しながら解決するのは
☆「この後も,何回か出てくるんですけども,先生は,はてなを3つ以上出しなさいとしか指示してないわけですよね。子供達の中から,はてなじゃなくてはてなに対する解答が何回も出てきて,どんどんどんどん解決していくんですよね。あれは,そういうふうに,もう約束事でなっているんですか?」
★『はい,約束ですね。最初の3つは,基本的にみな考えている。ノ-トを見れば分かりますから。終わってからノ-トを出しますから全部見れますよ。3つ書いた,その上で発表しているうちに気がついたことをどんどん書いていますから,大体1人12~3個くらい書いていますかね。発表しているうちに,もう答えが出てくるように。今から,はい発表,はてなが終わりました。さあ今から追究します。そういうふうにはなっていないんです。自然に発展するように。そうするとですね,どれがおもしろい問題かというのが分かるんですね。今,分かったのが,女がいないと言ったでしょう。ああいうはてなに子供が興味を持っているなあということが,こっちが分かる。なぜかというと,もう,さがしているんですよね。片一方ははてなを出していると片一方がさがしているわけです。そうすると,子供の問題意識のあり方なんかがよく分かるんですよね。私は,今問題を出す時間,今調べる時というふうに時間に分けてすることもありましたけど,6年生になるとほとんどそういう区別がありません。もう,出しながら解いていく,出しながら解いていく感じですね。』


6. 興味のある子が調べる
☆「今の女の子は,そうすると女がいたかどうかということを,自分で探そうと思って探しているんですか。」
★『いや,そうじゃなくて,はてなで女がいたかというのを磯部映子って子が出した。「女がいませんでしたよ。」と答えたのが野口容子ですね。全然違う子がおもしろいなあとおもったから。彼女もひょっとしたらはてなと思ったかもしれませんが,おもしろいと思ったからすぐ調べたんですね。』
☆「そうすると,さっきもちょっと見せてもらって感心したのは,社会科事典すごい厚いですよね。「300何ペ-ジから書いているんだけど。」とかいきなり言うわけですね。子供達がどうやって何百ペ-ジもある中から,関係する所はここだろうなって目安をつけて探し出していくのかっていう,その学習技能が分からなかったんです。」


7. 参考教材の紹介
★『そうですね。この事典は4年生から使わせてますから,しかもみんな2冊以上持っているんですよ。学校用と家庭用別々ですね。あの本は私が書いたんです。書いた時点で,「希望者は2割引きにしますが,いりますか?」と注文をとったら,120冊注文があったんです。40人で120冊注文があったんです。ちょっとおかしいんじゃないかと言ったら,1人が2冊。家庭用と学校用。あと1冊はどうするかと言ったら,親戚に送ってやるって。そういうことで120冊とりましたが,それを聞いたとなりのクラスが,私は隣のクラスでも授業をしています。「先生は自分のクラスだけ紹介して,僕たちのクラスは授業だけして推薦しないのはずるい。」と。「では注文をとりましょう。」って言ったら,そこでも同じように120。結局2クラスで240冊。そういう事典で,今も売ってますから,どうぞ。』


8 .指名の仕方
☆「後ろの方の子でですね,親藩とか答える子がいましたよね。先生,指名した時にこの子は何か知っていそうな雰囲気で指名したんじゃないんですか?そういう用語について。」

★『用語?言葉?』
☆「その言葉について。それと先生の指名権,はい君,はい君というか,どういうふうな意図で指名をまわしているのかということ。」
★『最初の方にあててきた子供は,比較的に社会科に弱い子ですね。段々時間がたって,はてなが見つけにくくなる。見つけにくい子を最初の方に指名しています。そして,今あたり,人質,女がいなかったというあのあたりからは,社会科もかなり得意な子ですね。はてな,見つけにくい子がいる訳ですよ。そういう子をつぶしてしまってはまずいから,先に指名して。そういうふうに,一応の区別ですね。厳密にやっている訳ではないですけど,一応そういうふうにしています。だから,問題出した途端に横の子が知っているという時には,横からね自分を当てろと合図している子がいますよ。俺が知ってるから,答えるからってね。そういうのもありますけどね。』


9. 知識のある子,ない子の対策
☆「すでにですね,親藩とか外様とかいう用語を知ってたんじゃないんですか?彼は。」
★『そうでもないでしょう。』
☆「先生指名した時の意図は,そういうのじゃないんですか?」
★『それ,私もよく分からないでやったんですが。新しく入った所でしょう。子供達の予備調査っていうか,子供に働きかけて,どの程度知っているか調べたりしますね。私は,書かせたりは絶対しません。うちの子は,一辺アンケ-ト調査でもしたら,あっここ授業するなって,パッと調べますから。一辺にばれてしまいますから。そういうことやるとだめですね。江戸時代はおもしろい?とかね,低中高いろいろいます。そんな子供に,ちょっと尋ねて,どうだって聞いてみると,やっぱり子供達が最も関心が多い,知識も多いのが江戸時代なんです。ということが分かります。じゃあ,江戸時代のどのあたりかなあというと,やっぱり大名行列だったらおもしろいんじゃないかということで教材にした訳で,調査は厳密な調査でなくて,そういう聞き取りっていうか,ちょろっと,随分前ですよ。もう直前になるとすぐ分かりますから。勘のいい子ですから。事前にちょろちょろっと聞いて,この辺,知識けっこうあるな,じゃあいきなりパッとやってもやれるなあというふうに判断したんですね。』


10. 「はてな?」の引き出し方
☆「最初に,色ぬりをさせた場合の授業の流し方というのは,どうなるのでしょうか。」
★『えっ?』
☆「色を染めさせた場合。プリントにして渡して。最初,今日は色を染めませんけどもとか,有田先生,発言なさってましたけど。最初にパッと入って,いきなり違う単元に入って,色染めをさせて,その後「はてな」を書かせて,あと今日のような形になるのか。」
★『もう渾然一体なんですよ。区別なしですよ。一番最初だけちょっと出てくるでしょう?でも,普段の授業も,今日は一体どういうことをやるんだなあと「はてな」を出すじゃないですか。その最初の「はてな」をやっているうちに,次の「はてな」が出てくる。いつか「はてな」が出てくるし,いつかそれが解決する。だから今1個終わった。次1個終わった。次。そういうやり方ではないですね。で,完全に解決してないですよね。今のように,女の人はいなかった,ということで終わったでしょう?あっ,もう1つ解決しましたねえ。実はね,あれ残っているんですよ。磯野さんが解決したって言うけど,実はね,変装して女の人が紛れ込んだという例があるとかね。女の人が紛れ込むから,関所で特に入り鉄砲・出女というのを厳しく取り締まったという。問題を出した彼女は,あれで納得していないんですね。それで,後で残ってくる。そういうふうに自分でおもしろいと思ったところは,いつまでも残るんですね。簡単に解決して終わるものもあるけども,いつまでも気に残るものもある。野口さんが,本にこう書いてますよと言ったから,解決しましたと私が言ったの。でも,出した方は,いやまだなにかある。そういうふうに,理解の程度が人によって違いますよね。だから一辺に解決したと言っても,解決の程度が,この辺か,この辺か,この辺か,違う。時間がたつにしたがって段々深くなっていく。そういうことで,同じ問題がまた出てきますよ。全部聞いてていただくと,繰り返し出てくるんですね。子供達に関心のある問題は。』


11 .授業のテンポは早くないか
☆「授業を見せて頂くと,授業のテンポがすごく早いなあという感じがするんです。例えば1635年家光の武家諸法度の中に参勤交代があるとか,大名の種類で,譜代・外様・親藩とか,その言葉がポンポンポンポンと出てきて,私,中学校で社会を教えているんですが,授業を通して生徒に定着させなきゃいけないような言葉ばかりだなあという感じがするんですけど,先生のクラスの40人の子供たちが,そう言われてパッと言葉が授業の中で出てきた時に,40人が,あっあの答はこういうやつだったんだとか,外様はこういう大名なんだとか,そういう中味まで分かっているものかどうかということが1つ。それから,そういうことが中学校の場合,テストに書けなければいけない訳なんですが,勿論筑波あたりの生徒は授業やっただけでは書けるようになると思うんですが,それが40人全部,その授業の中だけで定着できるようになるのかお伺いしたいんですが。」
★『テンポが速いですか?』


☆「すごいなと‥‥言葉1つ出てきただけで,生徒達がそろって反応できる。それが,下調べとかすごく調べた中でパッとできるのとは違って,すっと砂に水が染み透るみたいに受け取れる感じでした。私の授業では残念ながらそこまでできていないので‥‥。」
★『ちょっと速いと思いますよ,やっぱり。先程お話しましたように,大事な内容というのは何回も出てきますね。私が中村という子に,あの子が,大学受験用の参考書を使っている子なんですけど。その子は,歴史の知識が抜群にあります。だから中村君が立ったから,「君,大名には3種類ありましたね。言ってごらん。」って言ったんです。で3種類言えましたよね。この次やるときは漢字で書けますかってやるんですけども,他の子供達は「はは~江戸時代に3種類の大名があったか。」という情報が伝わったですよ。でも,私書きませんでしたよ。この時間のおさえる内容じゃないですから。ただ大名にはそういう種類があるぞということを,子供たちは知っていなきゃいけない。で,それを彼が知っているから,おそらく知っていると思うから出た。出たら,ふんふん3つあるなあってやっていきますね。その後で,今出てくる大名行列は親藩か譜代か外様かっていことを,あと誰かが問えるんじゃないですか。そういう布石にもなるんですよね。そういう意味で,もうとにかく子供一人一人が分かっていますから,中村にはどういうことを問えばいいか。彼は知識が抜群にある訳ですから,それを生かしてやることが彼の喜びですよね。ここしか活躍する場がないんですから。(笑い)他のはだめなんですから彼は。歴史に関しては抜群に強い。だから生き生きしていますね。私にとってはどの子をどの場で生かすかね。中村はすごいなあというように,他の一人一人の子供が生きる場をどう作ってあげるかだと思うんですけど。かなり出てきます。この授業ではこの人,この授業ではこれを生かすっていうことが出てきます。それから,板書のことがありませんでしたけども,板書の中に書いていますが,今,石高っていうのは赤で書きましたよね。何で赤で書いたか?  私は赤のチョ-クで書いたものは,全員必ずノ-トに書きなさい。そしてそれを覚えなさい。これは歴史用語として大事だ,社会科用語として大事だから,先生が赤で書いた字だけはノ-トに書きなさいってうことは4年生からずっと約束してるんですね。だから石高っていうのは赤で書きました。あと出てくる大事な言葉はですね,いくつか赤で書きますから御覧になって頂きたいと思います。それから,「これは問題をはらんでいるぞ」ということは黄色で書くことにしています。それ以外は白で書く。大体3種類しか色は使わないという約束。ごっちゃごちゃになりますから,使わないようにしています。それで,色チョ-クなんかも注意して見て頂くといいかなあと思います。』
<ビデオ>
『藤原さん』
「はてなの方なんだけど。」
『えっ?』
「「はてな」っていうか,この絵を見てってことなんだけど。江戸まで行くのに何日ぐらいこの行列でかかったかっていうこと。」
『鋭いね。何日ぐらいかかったか‥‥<板書>‥‥これは,藤原さん,スピ-ドが関係あるでしょう。スピ-ド。内田さん。』
「「はてな」なんだけども,参勤交代っていうのかな,その大名行列を見ると何か最初に偉そうな人がいて,その後ろには,あんまり偉そうじゃないって言ったらおかしいけども,そんな人がいるから,そういう順序っていうのかな,そういうのがどうなっているのかなっていうことと,さっき中村君が,親藩とか何とか言ってたんだけど,社会科事典の304ペ-ジに親藩とは将軍家と親戚関係にあった大名で,徳川,又は松平の姓を名乗り領地に配置され,外様大名を抑える役割をしたって書いてあるから,やっぱり大名の中でも役割が違う大名があった。」
『はは~。今内田さんおもしろいことを言った。これの行列の中にも何か身分の差があるみたいだと。』


12. 自分の進度を認めるか
☆「授業の形態としてですね,例えばですね,はてなを書く時ですけど,頭のいい子供達であれば,多分教科書あるいは資料集に答えが書いてあるはずだと,何もあそこで手を上げて発表しなくても,まず気のきいた子は教科書を読み始めると思うんですよね,最後まで江戸時代の所を。そうやって当然終わる子も,中にはいるでしょうし,それからあの場でどんどんどんどん自分の意見を言う子もいるんですけども,それはその子の学習のあり方として全て認めていらっしゃるのか‥‥‥。」
★『はい,認めていますよ。荻野っていう子はね,後で出てきますが,この子なんかはね教科書に書いてある程度はね大体理解している子です。でも,私はね後でね,彼とやり取りするんですが,はっきりしていないんです。そういう所で,彼はあまり発言しないけども,突っ込む。で,お前が知っていることはおかしいっていうことをさりげなくやるんです。それぞれ,だから,私が注意して頂きたいのはね,一斉学習をやっているって言われるんですが,僕自身は,一斉学習じゃない,個別学習をやっていると思っているんですよ。一人ずつ視野に入れていて,この子には今,こういう対応をする,この子には,こういう対応をする。見て頂くと分かると思いますが,かなりしつこくやる子とね,さらっとやる子とね,使い分けています。一斉に進めながらある意味では個別学習ではないかなという気がしていますが,先生はどういうふうに御覧になりましたか?』


13. 共通の課題をつくる必要はないか。
☆「それに関連なんですが,私なんか,例えば江戸時代であれば,一番最初に僕がこういう資料を見せたとします。そうすると,はてながいっぱい出てきて,それを共通の学習課題としてしまって,じゃあ次の時間はこれをしようねって,組んで授業を進めてしまうなあって思うんです。それぞれの27の子どものはてながこの時間内に解決できたとして,ある子にとっては,その中の4つでも5つでも解決できてれば良しとする,そういうふうにとらえて良いのでしょうか?」
★『最もオ-ソドックスなやり方ですね。私,それ卒業したんですよね。学習問題という形を作ってね,いいですね,これはこういうはてなですねって,わくがこいをしてね,最もらしく解いていった。あの時点でもうだめになっているんです。子どもたちがね,問題ができた時点で,もうべそっとなっているんですよ。つまりね,問題がはっきり成立するっていうのは,7割から8割分からないといい問題が設定できないんです。だから,これある意味では問題成立していませんよ。共通問題は。で,やっている内に,江戸時代,身分って一体な~にっていうくらいの問題は,1時間かけて,いうなれば学級の共通問題として出てくる。先生,江戸時代って身分の固まりみたいじゃないの?何かそんな気がするけどなあっていうのが1時間終わった最後ごろに成立する,ゆうなれば共通問題でしょうね。問題の質が4段階ぐらいあるんですよね。それを,言葉で書くというのは2段階ぐらいなんですよ。その時点で,問題を出したのでは,ふっとおわってしまいます。つまり,大きく分けると2つ,「調べたい問題」と,「納得できない問題」という質がある。調べたい問題というのは,調べたらぽっと終わっちゃうんです。大名には何種類ありますか?調べたら3つある。終わりじゃないですか。その程度の問題を学習の共通問題にしてはだめなんですよ。そういうことを乗り越えることによって,何で3種類の大名ができたの?っていうのが出てくるんですよ。その次に。そうしたら,なぜだろうな?4種類でもいいじゃない,5種類でもいいじゃない,何で3種類か,納得できないじゃないですか。そこで成立するのが,納得できない問題。だから,私は共通問題というのは,調べて答えが出る段階じゃなくて,納得できない問題。言うなれば,そういうことなんです。今はてな出してますけれでも,ほとんど調べたい問題の段階で,トットトット解いていってる。先生のおっしゃること,よ~く分かりますよ。私,その共通問題のこと,何年間も研究したんですよ。その結果,それをやることによって,いかにつまらん授業になるかということが分かった。そういう形式をやめて,これをやっている内に本質的な問題を整理するということを。本質的な問題というのは,みんなで‥‥‥‥‥‥それがおもしろいねってやるでしょう,それが全員の問題になる。そういうもんなんですよ。なんか文章で形の整ったきちんとしたもの・・・。じゃあ次行きましょう。』


14. どんなノートの仕方を指導しているか
☆「チョ-クの色別の使い方の所で,赤色のチョ-クは重要なことだからノ-トに書くようにということで,黄色いチョ-クも使っているということでしたけども,それ以外の場面では子どもたちはノ-トにどのようなことを書いているか,お聞かせ願いたいなと思います。」
★『子どものノ-トね‥‥例えば,そのまま写す子がいますね。そういう子を2・3名作っておかないと,私の授業記録上困る。そういう子がいました。さっきのGという子がいました。この子はね,小林修さんって新潟にいますが,彼は,Gさんのノ-トを見つけて,6年の時参観に来て,「彼女のノ-トは,これは綿密に学習を反映しているノ-トだ。」ということが分かった。4年と5年のノ-トを借りて,そして4年から現在までの間にどんな授業を行ったか全部調べあげた。(僕は知らないんですよ),Gさん,全部正確に書いてある。そういう正確に書くこと。例えば,さっきNっていう子がいましたね。あの子は,女がいなかったとか何とかかんとか言っていました。あの子なんかは,ノ-トは実に大ざっぱですね。もう,パッパッパッしか書いていない。その前に参勤交代のことを言ったFというこですが,この子なんか,ほとんどノ-トはとっていない。その子はノ-トなしでもいける。それでいいでしょ個性的で。それできなければ注意していますよ。3年間で1冊も社会科のノ-トを使わない子で,東大行きましたよ。これはね,私頭きましたよね,最初ね。「書け!」「書く必要はありません。」とか言ってね。抵抗したんですよね。でも,そのうちね,その子は書く必要ないや,まあいいやと。本当に書かないんですよ。3年間。社会科のノ-トを持たない。でも,レポ-トを書けって,作文書けって言ったら書くんです。普通のノ-トを持たない。中学行ったらどうなるか。中学行ったらね,多少書かないとまずいって言ってましたよ。そして,高校に行ったら,これはノ-ト力がものを言うって言ってきましたよ。それで彼はね,「僕は小学校の時に書かなかったけども,ノ-トをどのように書けばいいのかは先生に教わった。」と言っていました。私はね,ここは最初の頃こういうふうに書くんだよ。いいね。これは写さないでいいよっていう指導をしてきました。だから,この学級は3年目でしょう。ノ-トがVTRに時々出ると思いますが,実に様々です。このへんにいた女の子はね,参考書をみて一辺ノ-トに書いて,そうして発言するんですよ。そういう子もいるんですよ。そんなこと関係なしに印だけつける子もいる。ノ-トは様々です。ただ,共通しているのは,最後にあと5分で,「今日の勉強で」というのを書くんです。そこに感想を書く。それは共通している。それだけポンと書いて出す子もいましたね。だからノ-トは強制するものではないような気がしています。しかし,ノ-トとは何かということを最初に教える必要がある。僕は,「ノ-トは思考の作戦基地だ。」と思っていますから,自分が考えるのに都合がいい,だから資料を一辺ノ-トに写すなんていうのは,それが考えるのに都合がいい子は,そういうノ-トにしなさい。落書きばっかりする子もいる。漫画を描く子もいる。それは,漫画を描きながら,思考を練っています。私,本に書いていますが,6年で全部ノ-トを漫画で描いている子がいました。抜群にうまい,その漫画が。そういう子もいました。それは,基本だけ,思考の作戦基地になるようなノ-トを作ればあとは自由ですということです。』


15. 分からない「はてな?」はどうするか
<ビデオ>
『あ~行列の中ねえ‥‥‥』
☆「有田先生,先程26個生徒からはてなが出て,全部解決したとおっしゃったんですけども,もし子どもたちが解決できない場合,できないというか調べて分からない,または,子どもたちが興味を持って調べなかったような問題があった場合は,その問題は放っておくのか,それとも1つ1つこれはどうなのかと‥‥‥」
★『全部問うかということね?  残しますよ。』
☆「それは,子どもたちが自分たちで解決しない場合は‥‥‥」
★『うん』
☆「それは,そのまま‥‥。」
★『残しますよ。何時間もたってね‥‥例えば今日最後に残る問題は,何時間も調べて子どもたちが結論出し切れなかったの。一週間以上調べて。それで,とにかく降参しろって言って,降参しなかったんだけど,結局私が教えました。そういう問題もありますよ。子どもの持っている参考資料では,解けっこない問題ですね。』


16. 板書の中の「?」マーク
☆「それから,先程黒板に石高って書いて,赤でクエッションマ-クが出てたんですけど,あれもクエッションマ-クでそのまま調べることを‥‥‥。」
★『そう,ああいうふうに書いてクエスチョンマ-クを書くと,確実に問題として残っていく。もう分からない。石高が赤で書いて,しかもクエッションマ-クを書いているということは,この江戸時代の勉強に重要な役割を果たすんだなあということを子どもは感じていると思いますね。』
☆「あと,これは今調べた方がいいのかなあということは暗黙の了解で‥‥。」
★『分かりますよ。赤で書いてありますよ。上にはてなでしょ。だからほとんど調べる。あとで出てきますよ。でも,結局江戸時代の大名支配は,石高支配でしょう。だから,そのあたりにつながるもんですから,ああいうふうに残しておくんですよね。調べない子がいたら困るんで,調べるようにしておかないと,ああいうまわしはできませんよね。』
<ビデオ>
「少しずつグループになって行列しているんだけど,洋服の違いには身分の違いがあるのか。」
 『なるほど洋服が関係ある。身分の違いは洋服でわかる。ちょっと聞きます。この時代洋服を着ていた。』
「着物。」
『いま洋服って言ったじゃない。』
「和服。」
『じゃ着物にしておこう。洋服だとちょっとおかしいでしょ。着物で身分の違いがわかる。』
「何日間も行くっていうことは,あれだけの人数がどっかで寝なきゃいけないんだから,どこで寝泊りしていたのか。」
『疲れたところで寝るというわけにはいかない。これおもしろいですね。どこで寝たか。これ人数が相当ですね。』


17 .どんどん解決していく子ども
「お母さんに聞いたことがあるんだけれど,家の近くは昔江戸時代だと,上宿,中宿,下宿っていって,3つの宿場町に分かれていた。江戸からどっかにいく時は必ずそこに泊まってたっていってた。だからきちっとした所があった。」
『決まってた。宿というものがあったらしい。』
「大名行列のトイレはどこでやったか。」
『だれがですか。行列する人ですか。』
「大名が。」
『大名が。』
「ハイトップに書いてあるんだけど,大名がトイレにいきたくなったとき,厠篭という篭を横付けにした。大名は篭に乗り移ってすませ,終わると,もとの篭にもどったって書いてあるから。」
『何に書いてあるの。』
「ハイトップ。」
『ハイトップを愛する人だね。大名行列中にトイレにいきたくなったら,別の篭に乗り移る。おもしろいですね。厠篭というのが別にあった。トイレはおもしろいですね。真君はトイレ専門ね。』
「この行列の人はみんな殿様の家来なのか,それとも雇われた人なのか。それからこの絵の場所はどこか。橋のない川はどうやってわたったか。この人たちは逃げ出したりしなかったか。」
「大名行列をしていて途中で交通事故みたいなものがなかったか。」
『江戸時代に交通事故があった。交通事故ね。なるほど。あったでしょうかね。』
「みんなっていうか,あの人以外なんで帽子をかぶっているか。あの人だけかぶっているか。途中で藩主と藩主が戦っちゃうというか,あっちゃってけんかしないのかということ。」
『藩主と藩主って大名行列がぶつかるということ。』
「けんかにならないのかということ。」
『君はよくけんかをやるからなあ。』
「交通事故のことなんだけど,社会科事典の307ぺーじのエピソードというところに江戸時代に交通事故はあったかというのが書いてあって,江戸時代にはスピードの出る乗り物がなかったので,交通事故はなかったと思われます。何しろ江戸時代の交通手段は,馬,牛,人力ですから。ところが江戸時代にも道路交通法がちゃんとありました。交通法があったということは事故もあったということです。牛,馬については,監督なしにひいてはいけない。2頭以上引くときは,届け出ることとかかれていました。だから,道路交通法があったということは,事故があったということ。」
『事故があった。どういう事故があったんだろうね。三木君がいったね。大名がこちらから(左の方から)きた。それからこちらから(右の方から)こういうふうに来たと。ぶつかってけんかしなかったか。中村君どうですか。』


18 .大名行列は何のためにしたのか?
「あったとおもう。大名同士は権力を幕府に押さえられていた。けんかがないと同盟しちゃうわけでしょ。同盟しちゃうと幕府は困るから,離すから,だから,少しはする。」
『けんかしてもらったほうが幕府はいい。』
「そうすると,大名の権力は失うでしょ,両方とも。石高も減るようなもんだから,減ると,大名は謀反を起こさなくなるわけだから。」
『へえ。どうやってけんかするの。そのための武器か,これは。鉄砲の玉が入っている。「大名行列は長いんだけれど,馬にのっている人は交通奉行っていって,なんか前の方は鉄砲とか槍があるし,後の方にも槍を持った人がいる。供侍というのもついている。軍備が整っていてたくさんの兵がいる。』
『いつ戦争してもいいようになっている。』
「殿様を守っている。」
『武器があり,侍,武士もいた。』
「ぼくも武器を持っていたと思うんだけど,そこの絵には載ってないと思うんだけど,ほとんどが槍ばっかりで,藩主とか親藩とかほとんどの人は刀を持っていた。大名が来ても戦えるようになっていた。」
『これは戦争にいっているようなもんか。』
「誰かが江戸にいっているといったでしょ。大名行列というのはどこからどこに行ったのですか。」
「大名の出ているところ。」
『国元ね。』
「国元から江戸まで行った。」
『国元から江戸ですか。全員江戸にいくの。時には途中までしかいかなかったという人もいたんじゃない。』
「人質がいたからもし戻ったら人質が殺されてしまう。」
『絶対いかなきゃならない。途中で戻った人はいない。』
「たとえばひいちゃんのお父さんが人質にとられたなら,お父さんか殺されてしまうわけだから。」
「参勤交代のことなんだけど,社会科事典の306ページのここがポイントというところに。」
『あなたは社会科事典を愛する人だね。』
「参勤交代って書いてあって,大名にお金を使わせ力を弱ませる政策ってかいてあるんだけど。」
『政策か。だれが。』
「徳川のおじさんだと思うんだけど。」
『徳川幕府が大名にお金を使わせる。』
「徳川さんに大名は歯向かえないから。」
『歯向かえないように大名行列をやった。』
「だから人質をおいて必ず江戸にこさせてお金を使わせて,力を弱めようとした。」
「参勤交代というのは江戸に行くには人材というのもいるし,お金もいるから,お金はなくなっちゃうから,経済力も落ちちゃう。大名の経済力が上がると,徳川の幕府がつぶされるかもしれないから,財力を落として従えるようした。」
『大名行列というのは江戸幕府の政策である。どういう政策かというと,大名の力を弱める。栗原君,これでいいですか。』
「参勤交代を辞書で調べたんですけれども,3代将軍家光の時に制度化され,1年おきに江戸と領地の間を往復した。またその間に妻子は人質として江戸に置かれた。自分の領地から江戸に,江戸から自分の領地にいくわけだから,力を弱めるためのは間違いない。」
『間違いない。』
「社会科辞典の参勤交代というところに,幕府の大名支配政策の一つと書いてあって,大名は国元に1年おり,次の1年は江戸に住む。大名の妻や子どもは幕府の人質をとしてずっと江戸に住む。このため江戸の生活の多くに費用がかさみ,大名を苦しめたと書いてあるから,大名行列は多くの費用がかさみ,鉄砲とかそういう武器に使うお金がどんどん減ってっちゃうわけでしょ。徳川に歯向かうことができなくなって,歯向かわせないためにも参勤交代を行った。」
『江戸幕府を守るためね。ちょっと問題ですけど,幕府が大名行列しなさいっていったらいやだっていえばいいじゃない。君たちは先生がしなさいといったら,いつもいやだっていうじゃない。』
「ニューコースの97ページに武家諸法度というのが載ってて,大名が毎年江戸に参勤することって書いててそれを守らないと」
「罰せられる書いてあるから」
<進行から>
この後質問のある方は挙手をお願いします。


19. 調べる力をどうきたえるか
☆「子どもが資料を使って指摘をするわけですね。証拠を探してくる。それを何ページに書いてあると。それをいうこと自体大事な指導だと思うのですが,大抵の場合は読んで終わりといいますか,ここに書いてあったよで,止まっちゃう。その子の本音とか実感とか納得したところまで,表現しきれないというか,そこまでなかなかいかない。ところがさっきの子どもは自分なりの解釈も述べていますね。その辺りはいつもどの辺を気をつけて先生は指導なさっているのか。」
★『今の指摘は鋭いと思います。今まで4年生の後半くらいから,資料を使って発言することを4段階くらいで指導してきた。
①何という資料で調べたか。
②何ページに,
③どう書いているか。今の質問では,どう書いているで終わってしまうということですね。4番目が大事で,
④自分はどう思う。何ページの何という資料になんと書いている。それで自分はどう思う。わたしがきいているのは教科書に書いていることをきいているのではない。自分の考えを聞いているのだ。その考えの根拠になるものが資料のここにある。発言のBタイプとわたしはよんでいますけど。Bタイプの発言ができるように鍛えている。そのためには素早く資料を探してそれを読んで,理解しなければいけません。だから大変なんです。最初はなかなかできない。それをできない子はノートに書いているんですよ,いまでも。ただし多くの子は6年になったらだいたいそれを見て読んで,ここにこう書いてある,交通法があったということは事故があったと自分で判断を下していますね。そういうことができるように4年の後半ですね。資料の使い初めから,指導してきたのは。だから資料を使うということは,読んで解釈を加えないと駄目なんですね。ここにこう書いています,だからわたしはこう思う。というふうに,読み取ったことを言わないと,自分のものにならない。中学でもなかなかできませんわね。この発言が。教科書に書いてある。はい次と,事実を単語でぽんというだけですよ。これは駄目なんですよ。考えを発言しないと。そのために積み重ねが必要ですから,今のような発言の仕方を鍛えたらどうでしょうか。資料の何ページにこう書いています。こう書いていますというのも大事なんです。さらに,だから自分はこう思うというフレーズが,4段階がなっていることが大事なんです。というものを鍛えればここまでできます。できると思うんですよ。わたし,飛び込みでもよくやりますが,何人かをほめるんです。いやあすごいすごい。今のこういう(4段階の)言い方ができていたね。その次の子はもうまねしますよ。だからきっかけが大事じゃないでしょうかねえ。具体的にやった子を誉めていけば,広がっていきます。』


20 .大名行列の目的?
<ビデオ>
「それに賛成しないと罰せられるし。」
『いやだといえなかったの。』
「社会科資料集の306ページに。」
『事典だよ。』
「社会科事典の306ページに,とりつぶしというのがあって,大名が領地を取り上げられ,家をとりつぶされることって書いてあって,江戸時代にはたくさんの大名が取りつぶしにあった。中でも家康,秀忠,家光の代に多く,100あまりの大名が取りつぶされた。その後主なものをあげると,ぜんぶで160(1338万石)の大名が取りつぶされたと書いてあるから,歯向かうと自分のを取りつぶされるから。」
『絶対だめ。はあ,こういう法律で定めた。この言葉は難しいですねえ。武,家,諸,法,度。法律ですね。分かりました。』
「大名行列を2年に1回やるでしょ。」
『大名行列というのは2年に1回?毎年?2年に1回?』
「莫大な費用を使うでしょ。」
『莫大な費用ねえ。』
「だから大名はすごく赤字になったり,借金がどれくらいあったり。」
『借金があった。』
「だってあるんじゃないかな。必ず行かなきゃいけないから。」
『はあ行きたくないけどねえ。大名行列は2年に1回。毎年。これどう。』
「国元から江戸に行って,そこに1年間滞在して,それから戻るわけだから,参勤交代は2年に1回だけど,するほうは毎年行ったり来たりしている。」
『本当か。』
「大名が往復するのにも,すごくお金がかかるでしょ。それに反対したり行きたくないって言うと自分の土地を取り上げられて,土地じゃない領土だ。取り上げられて,家をつぶされるし,そのうえ妻や子どももとられるから,お金を取られるより悪くなっちゃう。」
『これは絶対に,大名行列はやらなければいかん。しかも,毎年だ。ちょっとよし君出てきて。三木君も。恐れ多くも2人とも大名です。何となく神々しいでしょ。こちらから逆瀬という大名が来ました。こちらから三木という大名が来ました。いま2人喧嘩するといったね。2人出会ったらどうします。』
「握手する。」
『どうする。』
「どこの藩かきく。」
『はあ,どこの藩かきく。あなたはどこの藩ですかって,きかなきゃわかんない。』
「あのさ。モップでわかる。」
『モップでわかる。あ,やっぱり掃除道具だ。これモップだって。モップを見たら,逆瀬か,三木かわかる。モップの長さで決まってんの。毛の長さとか。』
「大名行列はいろんな大名と出会うわけだから,そんなモップの長さなんて,いちいち覚えてらんないから,きかないと分からないと思う。」
『きかないとわかんない。それじゃ,きかないとわかんないと思う人?いや見ただけでわかると思う人?なんでわかるの。』
「何でだかわかんないけど,そんなどこの藩ですか,なんてきかないと思うの。」
「きかなくても,その人の強さが行列の長さとか人数とかでわかるから。もし自分の方が人数がす少なかったら喧嘩したら完全に負けるんだから,絶対しないと思う。」
『長さをどうやって見るの。こうやってこうやって見るの?』
「自分たちのはこれくらいで,相手の方はバアッといたら。」
『真っすぐの道だと分からない。山だったり川だったりしたら分からない。』


21.教師はどのように出るべきか
☆「先生の授業を見ると,必ず子どもの意見に対して,ちょっとユーモアでかわしたり,後は切り崩してみたり,問いを発してみたりと一人ずつ必ず何か反応しますよね。子どもたちを見ると先生と話しているような印象を受けるんですね。いろんな授業のスタイルがあると思うんですけど,このクラスだと,子どもたち同士でもどんどん追究していくような気もする。必ず先生が介在するところの先生の意識というのはどんなものでしょうか。」
★『ちょっと出すぎるという人もいるんですよ。これも子ども同士やれるんですよね。そういう授業もやったんですが,わたしがポンというのが,実に楽しいから,続けろって。わたしがポッといったことで,子どもが,あれ,大事な問題じゃないかなと考えるらしいんですね。途中でやめたりしたんですが,最後はこのスタイルになりました。飛び込み授業でもやってみたんですが,わたしの一言いうのが多すぎる,一問一答みたいになっちゃう。でも,それだけじゃないんですね。何か言ったことに対して,すごいねとほめたり,何かゆさぶりとかけたりすると,ちょっと待てよ,俺が言ったこと本当にこれでいいのかなというような自分をふり返るような問いかけをその子にしてやる。感想を書かせてみると,わたしがちょっと言ったこと,反応を示してくれたことに喜びを感じるという声を子どもからもらって,結局わたしのスタイルみたいになっちゃって,続けているんですが。先生がいうようにこれなしの授業はできますよ,この子どもたちに。どうですか。』


☆「聞こえててももう1回と言ってたじゃないですか。あえてやってる辺りは。」
★『大事なやつね。例えば全員に徹底しなければいけないようなときには,聞こえないふりして,んんん,今なんて言ったのもう1回言って,という言葉でちゃんと注目するんです。聞きますよね。低学年ではその方法は有効だと思うんですね。聞き逃してならないというものは2度3度言わせてますよ。それはこちらの判断ですね。でもあまり出ない方がいいかもしれませんね。』


☆「今の先生の結論は,先生が出た方が子どもたちが楽しいから続けてくれと言われたとおっしゃいましたよね。先生の見通しといいますか,発達段階からすればですね,子どもたちの自分たちの力で学習を進めるような到達点というか目的点というのはなかったんでしょうか。」
★『授業ではあのスタイルですけれども,子ども自身は自分で学習する力は高まってきたと思うんですよ。資料をあれだけ使えるというのは,かなり自分で学習できるというわけですから,授業を楽しくするためには教師が介在して,いま教師がいらない授業というのは多いですよね。わたしの授業は,古いといわれる。古いけれども,新しい授業を1年間続けられない。自分のスタイルでないと1年間続けられないから,いちばん続けていちばん気楽に,そしていちばん楽しく続けられるスタイルを続けているんだということです。まず私自身が楽しいということです。子ども自身もわたしが何というか楽しんでいる。そういう雰囲気でした。最後までこのスタイルで授業しました。教師が引っ込んでいると,「先生今日元気ないね。」といわれることがありました。わたしは教師が出ても悪いことはないと思っています。子どもをゆさぶって教師がこれでいいかこれでいいかと思わせることがやはり仕事じゃないかなあと思います。鈴木恵子さんなんか授業しているときは座ってますからね。あれ1年間やったら,子どもはばかになりますからね。あれは1年に何回しかないんですよ。その1年に何回しかやらない授業をまねしようとするからダメになるんですね。わたしは365日やれるスタイルで研究会をやるべきだといってるんですが,いい場面を見せるために,子ども同士がやれるような授業を仕組んでおいて教師は座っている。普段はあんなことやっていませんよ。ぼやぼやしないの,とやってるんです。そうしないと子どもは自分の出番が分からないんです。あなたはおしゃべりしすぎ,この時は次の人に譲るのというようにしていくと,自然にこの子は回数が少ないとなって,子ども同士がやれる。新しいクラスを受け持って,4月5月にそういうことをやって積み重ねていって,子ども同士がやれるようになる。子ども同士でやる授業を1年間やんてみてご覧なさい。力つきませんよ。それこそ中学の先生,受験,受かりませんよ。内容を押さえなければならないところは先生が出てやらなければいけない。研究授業を見るときに華やかさに惑わされない,形にまどわされない。確かな目で見ないといけない。この授業で子どもは力ついただろうかと,常に考えなければならない。先生が座ってて力つく場面もある。しかし先生が出た方が力つく場面もある。今年も高洲南小にいったんですが吉田先生が算数の授業で,ここで先生が出て一言言えばわかるところを,彼は出る場を失って出なかった。もたもたしてはい回った。それは先生が出る場を失ったからだといったんですが,見る方はわかるがやってる方はわかんない。教師が出て何をするかということですね。教師が何をしているか見ていただいたらいいんじゃないでしょうか。』


22.授業の形態をどう考えるか
☆「複線化を図る授業とか,個性化を図る授業とかいろいろありますが,先生の授業を拝見すると,資料は一つですが,子どもの興味関心はいろいろで複線的な授業をなさっているのではないかと思います。自分の授業の形態はどのようにとらえられているか。」
★『わたしの授業は基本的には教師中心の授業だと思いますね。その中で一人一人をどう生かすかを考えてきた。今のビデオを見ればわかるように,はてなが錯綜しているんですよね。大名行列の授業で自然にSという子どもを引っ張りだして,ぶつからせた。それは前にいる子どもたちが,藩主と藩主がぶつかったらどうなるかというはてなを出してきた。指導案では予定していたんですね。わたしが問い掛けなくてもその通り子どもから出てきた。出てきたところを生かして,指導案は一応予定ですから,藩主と藩主がぶつかったときにどうなるかをやれば,今まででなかった新しいはてなが出てくるんですね。はてなが重層するんですよね。』


☆「はてながいろいろ出てきたときに,束ねるということはするんですか。」
★『束ねることもありますが,ほとんど束ねない。これは重要と思われる,これをやると次に発展しそうだといちばん思われるはてなを引っ張りだしてくるんです。大名と大名がぶつかる。次に身分の差というのが出てきて,紋章とかも出てきますから,新しい内容が出てくる。今はい回っているんですよ。そこで二人の子どもを前に出して,ぶつかったらどうなるかを考えさせて,ちがうはてなを出そうとしているんです。』


☆「授業の最後に感想を書かせているとおっしゃいましたが,どういう観点で書かせているか。」
★『まず,今日の授業はおもしろかったかおもしろくなかったかというのが1点。それから何が分かったかということは書く必要ない。どういうところがわからなかったかを書く。分からないことが次の授業につながりますから,分からないことを書かせる。大きく分けてその2つでですね。』


☆「自己評価ではないわけですね。」
★『ちがいます。子どもによっては自己評価を書いている子もいます。質問ばっかり書いている子もいますよ。それは自由ですけれども,基本的には今日の授業はどうであったか,楽しかったか,わからなかったか,ダメだって書く子もいますよ。また,今日の授業の中で自分に残った問題は何かを書かせています。』
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