心温まるとっておきの道徳授業 

 温かい父母の応援を受けて

 心温まるいじめの授業

 いじめ問題を扱うと、必ず暗い雰囲気で授業が終わってしまう。         
 6年生を担任した時もそうであった。  
 当時「人間失格」というテレビ番組が放送されていた。子どもたちに良く聞かれた。
 「先生、昨日のテレビ見た?」      
 教師の反応をつかみたかったのか‥‥。 
 道徳の時間、いじめについて話をしているうちに、               
『先生が、あの主人公の親だったら‥‥いじめた子、一人ずつ‥‥‥殺していくよ。 
 親の気持ちって、そういうものだよ。』  
 教師にあらざる言葉が出てしまった。いつもは明るいクラスが物音一つしない中で‥‥しかし、それにうなずく子がいた。   
 自分を誰よりも大切に思ってくれている親の存在を強調したかった。それは、子どもたちにとって、大きな心の支えになるはずだからである。            
 ┌────────────────────────────────────────────┐ 
 │ 親子のつながりを強め、お互いを認め合い、ともに成長する場を作りたい │ 
 └────────────────────────────────────────────┘ 
 いじめの授業を通して、親子の会話を導きたい。親が子どもを心配している。子どもが親に感謝している。         
 友達を大切にする心を育てるには、まず自分を大切に思ってくれている人の存在を感じとらせて、そこから始まるのである。 
 暗くない、心温まるいじめの授業は‥‥。

 

①導入 授業  <12/5> 
 ┌─<事実を知る>─────────────────────┐ 
 │ いじめの記事を載せた学級通信を配る         │ 
 └────────────────────────────────┘ 
 昨年度、3年生を担任した時、伊藤準君の自殺の記事、そして遺書を載せた学級通信を配った。新聞・テレビ等で騒がれていたため、多くの子どもたちはその内容を知っていた。
 ┌─<意見を交わす>────────────────────┐ 
 │ いじめについて話し合う                                               │ 
 └────────────────────────────────┘ 
 生々しい遺書、いじめの内容を読み進めるうちに、下を向いてしまう子、涙を流し始める子が出てきた。
「いじめは、悪いことだ。」
「いじめられる子がかわいそうだ。」
「ぼくたちは、そういうことをしない。」
 いじめの授業はこういう結末で終わる。今回も、とりあえず授業ではここまでとした。
 ┌─【授業後の日記より】 <12/5>──────────────────────┐ 
 │‥‥‥‥‥ぼくは、かなしくて、さいごのほうでなきました。一人の人が五│ 
 │人の人にいじめられて、自分の人生をそのままうばっていかれました、と │ 
 │かいてありました。さいごに「ショックをうけた」「むししてわるかった」     │ 
 │「今後は勉強をがんばりたい」ぼくは、さいごのことはなんにもならないと  │ 
 │思いました。‥‥‥‥‥かないしいなあ                      │ 
 └────────────────────────────(Nくん)──────────┘ 
 ┌───────────────────────────────────────────┐ 
 │‥‥‥‥これから、というのに、自分で自さつなんて、かなしいのは自分  │ 
 │だけじゃなくて、かぞくの人や、友だちみんながかなしむのです。自分は、 │ 
 │ぜったいしたくないな。がっこうにお友だちがいて、毎日たのしいです。こ   │ 
 │れが一番のしあわせです。                                            │ 
 └────────────────────────────(Kさん)──────────┘ 
 子どもたちは、日記帳に授業の感想を書いてきた。延々と何ペ-ジにも渡って書いてきた子もいた。            

 

②お家の人へお願い   <12/5>   
 いじめについての『子どもへの手紙』  
 前述の授業をした日、プリントで、各家庭に、子どもたちへ手紙を書いてくれるようにお願いした。プリントの内容は、   
┌───────────────────────────────────────────┐ 
│『いつでも、どんなことがあっても助けてあげる。守ってあげる』             │ 
│『今、困っていることはないか?』                                            │ 
│『小さい時、あんなこともあったな。時々叱るけど、みんな◯◯がかわいい│ 
│からだよ』                                                                                                     │ 
│というような内容でお願いします。封筒、便箋などはお家にあるもので結構│ 
│です。封筒の表にお子さんの名前を書いて、手紙を入れて糊付けして、お │

│子さんを通して20日まで担任へお届け下さい。                        │ 
└───────────────────────────────────────────┘ 
 というものであった。         
 手紙を書くまで、各家庭で、父母、または、親子で授業で使った学級通信をもとにいじめについて話し合った家庭が多かった。
 手紙を書く、という条件があればこその家庭での話し合いであったかもしれないが、そこにも大きな意義があったように感じる。
                     
③授業の感想 学級通信を読む。<12/21>
 12月5日の授業後の子どもたちの感想(日記)を載せた学級通信(B4で4枚分になった)を私が読んで聞かせた。
「お母さんもそう言っていたよ。」    
「私も○○さんと同じだと思います。」  
「お父さんは、もっと強くならなくちゃだめだと言っていたよ。」         
 感想を読みながら、それに同意する子の意見を取り上げていく。         
 ┌─────<12/5日の日記> ─────────────────────────┐ 
 │ わたしが、もしもいとう君のように5人からかこまれていじめられたら、     │ 
 │やめてといえない。5人いるんだからやめてといったら、ますますやられる│ 
 │‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥                                                                           │ 
 └───────────────────────────────────────────┘ 
 授業の時、この子は、こういう自分の考えは発表できなかった。

 いじめをなくすには、こういう立場の子を支え合う友達集団こそが大切なのである。
  授業のあと、子どもたちは、家族といじめについて話をしてきている。だからこそこういう感想を出して話し合うことができるのである。              
 「そういう時は、助け合わなくちゃ。」  
 一番あぶなそうないたずらっ子が意見を言う。                 
 「おまえは、そういう時(だれかがいじめられていそうな時)にこそ、がんばらなくてはいけないんだぞ」
 彼は、家族からの熱い応援を受けている。
 かくして、一時間目の授業は終わった。

 

④父母からの手紙を読む。<12/21>
 2時間目、『お家の人の手紙を読んで、返事を書こう』と言って、みんなに封筒と便箋を渡した。
 その後、父母からの手紙を渡した。   
 ハサミで切ったり、のりをはがしたり、みんな大事そうに開けていた。      
 手紙を取り出して、みんな「せ~の」で一斉に読んだ。最初は、ざわざわしていた。
 「ぼくのは3枚はいっているよ。」    
 「うわ~たくさん書いてある~」     
 しかし、少しすると、静けさが教室をうめつくす。どの子も手紙に見入っている。 
 熱心に読んでいる子。手紙を手に、うっすらと目頭が熱くなっている子がいる。

 渡しておいた便箋に返事を書き始める子、何度も読み返している子‥‥‥‥‥。   
 教師の入り込める世界ではない。 
 しかし、感動は肌で伝わる。      
 後は、教師の指示は、沈黙だけでいい。 
 子どもたちは父母へ手紙を書き始める。 

 ┌─【授業後の日記より】 <12/21>─────────────────────┐  

 │ ぼくは、おかあさんの手紙をよんでないてしまいました。どうしてかとい│ 
 │うと、ぼくのことをこんなにだいじにしていてくれたとは、しらなかったから│ 
 │です。ぼくたちも、おかあさんに手紙をかきました。四まいぐらいかきまし│ 
 │た。少しつかれたけれど、こういうのもいいんもんだなあと思いました。 │ 
 └─────────────────────────(Yくん)  ────────────┘ 
 ┌──────────────────────────────────────────┐ 
 │ お父さんからの手紙でした。みんないっせいの~でよみました。かみに│ 
 │かくとき、ないてしまいました。Yくんもないていました。わたしもなきまし   │ 
 │た。いじめというのは、わるいことです。                                 │ 
 │  わたすとき、どきどきしました。                                          │ 
 └─────────────────────────(Aさん) ────────────┘ 
「先生、生まれて初めてお母さんに手紙を書いたよ。」そういう子がたくさんいた。 

 

⑤手紙 父母の感想           
『いじめについての親子の手紙』の感想を書いて頂いた。感動させられた。教師として、そして、一人の親として。       

 

※ Iくんのお母さんから※※※※※  
 親からの子への手紙、提出プリントがきた時、主人は大変なてれやなので、きっと私は「おまえが書け」と言われるだろうと思っていました。ところが、何も言わず二日位して、「S!これお父さんからの手紙だ」と自分で手渡したのです。そして、私に向かって「早くおまえも書け」と言いました。主人の意外な態度にちょっと戸惑い、私もすぐペンをとりました。        
 そして、今日息子からもらった手紙に、「ぼくは幸せです。あたたかい生活が、毎日幸せです。ぼくが幸せなのは、お母さんたちがいるからだと思います。」という文がありました。ここを読んだ時、涙がとまりませんでした。母親になって本当に良かったと思いました。そして、益々今の生活を大切に、子供たちを育んでいかなければと思いました。今回の授業は父親も母親も勉強させられ、とても良いことだったと思います。ありがとうございました。     
                     
※ Oさんのお母さんから※※※※※  
 Oは、寝る前にそっと「おかあさん、あとで読んでね」とはずかしそうに手紙を渡してくれました。子ども達が寝てから、主人と二人で読んで、とても驚きました。手紙の中には小さい頃自分が大変だった事、 くやしかった事、そして私達親に対してのやさしい言葉が書かれてあり、いじらしくてグッときて、うれしさで胸がいっぱいになりました。その夜は、主人と私はOの小さかった頃の事や小学校に入ってから成 長した事を夜おそくまで話し込んでしまいました。Oの手紙の字は、いつもよりず-っとていねいなうえ、とても力づよかったので、どんなに一生懸命心をこめて書いてくれたのかがよくわかりました。    
 いじめについての授業や今回の様な親子の手紙のやりとりは、今後も続けてほしいと思います。小さい頃から「いじめ」は絶対してはいけないこと。いじめられても絶対に死をえらんではいけないということ。そして、自分の死は、どれだけ回りの人を悲しませるかを考えたり、話し合える場が必要だと思います。今回の手紙で、私自身も子どもに対して思う心を言葉にして言う事が必要ではないかと考えるようになり、注意したり、しかるにしても、Oのことを思っているから言っていることをつたえようと思っています。また、Oの良い所はいっぱいほめてあげるということを心がけていきたいと思いました。        

 

 手紙をもらって喜ぶ父母。その姿を見て喜ぶ子どもたち。親子の強い絆。
 教師がそこには入り込めないのが、ちょっぴり寂しくもある!

 

 『道徳授業を楽しく』(明治図書)1997 8月号