6学年末「このシチズンシップ」で授業する
小学4年「私たちのすてきな町に」での授業構想
私がシチズンシップという言葉を意識するようになったのは数年前に社会教育主事の講習に行った折、当時の東北大学教授不破和彦先生の講義からである。しかし、その当時は、学校教育とは距離があるなと感じていた。
ところが、「イギリスの教育改革と日本」(佐貫浩著:高文研)を読み、日本にも大きな教育改革の流れの中で近いうちに必ずこの波は来ると感じた。
私は「シチズンシップ教育」の目的を、次のように捉える。
「子どもたちが、参加型民主主義を理解・実践するために必要な知識・スキル・価値観を身につけ、行動的な市民になること」
(学校におけるシチズンシップと民主主義教育のための教育・シチズンシップについての諮問委員会最終答申1998・9月より)
改めて社会科の目標と比較してみると、ほとんど違いのないことが分かる。
学習内容
内容的には、どのようなことを扱えばいいのであろうか。
シチズンシップ教育の本家イギリスでさえ、セカンダリー・スクールで義務化され総授業時間の5%をこれにあてることが法的に規定されたとは言え、独立した教科にはなっていない。担当者も曖昧。教育内容として何を扱ってよいのかも非常に曖昧であると言う。
私は、小学校におけるシチズンシップ教育は、自分たちの地域を愛し(ローカルアイデンティ)、自分の身近な地域のために「自分には何ができるか」と考え行動すること(ボランタリズム)で十分なのではないかと考える。
すると、4年生の社会科で行ってきた学習内容は、そのほとんどがシチズンシップ教育の学習内容となりうることに気づかされる。取り立てて新しいことをする必要はないということになる。しかし、授業の中で、
┌───────────────────┐
│「自分にできること」という意識 │
└───────────────────┘
を育み、
┌───────────────────┐
│「行動した」という事実 │
└───────────────────┘
を残し、
┌───────────────┐
│ 必要なスキル │
└───────────────┘
を意図的に定着させることが大切である。そうすることが前述の目的を達成させるのである。
学んだことは、どこか遠くにある客観的な普遍のものなのではなく、学んだことを通して、自分で考え実践するという一連の動きを保障し育てるという視点が強く教師に求められる。
方法として
佐貫氏は、前書で、
「日本の教室空間は、その学習の中から市民的力量が立ち上がっていかない負の特徴を深く背負わされている。」
と述べ、その理由として、
・画一的な学習空間=自分の意見や見解を形成する契機の消失。
・唯一絶対の正解がない問題に関する学習の欠落。
・子ども同士の表現抑圧関係の深刻さ。
を挙げている。
これらは、シチズンシップ教育の学習内容を問う前に学校教育の根本を問うている。
負の特徴の逆を行く、民主主義的な和をもって成り立つ学級集団の中にいる子どもたちは、その心地よさやシステムから、学習内容に問わず、すでに方法において、シチズンシップ教育を実感しているということにもなる。
総合的な学習の時間と同様に、シチズンシップ教育も、学習活動の内容を同じにすればそれでこと足りるというものではないようだ。
第4学年社会科学習指導案
1.単元 私たちのすてきな町に
2.単元について
いつも当たり前に見てきた所や、近くてもなかなか行かなかった所を、実際に自分の足で歩き、一年間の「学び」を通した目で実感させることによって、自分たちの住む身近な地域の良さを再確認させる。
その際、社会科の学習を通して、自分たちの住む地域の良さを再確認させることを目安とする。消防への取り組み、ごみ処理施設、飲料水の確保、下水処理の工夫、ふるさとの歴史、地域産業などの視点である。
それらを互いに伝え合うことによって、他者の気づきのすばらしを実感し、地域を愛する心を育むと共に、共に学ぶ者・生きる者としての互いの存在を受け入れられるようにする。
最終的に、自分の考えのもとに行動する場面を設定して、地域のために活動することによって、地域社会に対する愛情、自分も地域の一員であるという誇りを体験と実感を通して学ばせていく。
本単元は、めまぐるしく変化を続ける現代社会にあって、子どもたちが将来、市民として十分な役割を果たし得るよう、知識、態度、スキルを体得させるための教育として、近年、欧米諸国で関心を集めているシチズンシップ教育の視点に立っている。
今日、日本でも、深刻な不況によって若者失業者が増加し、将来への展望を失った若者たちの暴力、社会的無関心が重大な問題として認識されるようになってきた。
授業の中で、「自分にできること」という意識を育み、「行動した」という事実を残し、必要なスキルを意図的に定着させ、子どもたちが、参加型民主主義を身につけ、行動的な市民になるよう意欲づけを行っていく。
3.目標
○ 一年間の学習を振り返り、自分たちの住む地域の良さ、改善点について意見の交流・共同作業を通して、互いの気づきの良さを認め合いながら、再確認・発見させ、地域を愛する心を育む。
○ 自分の身近な地域のために「自分には何ができるか」と考え行動させ、自分も地域の一員であるという意識と喜びを体得させる。
4.学習指導計画
第一次 地域を再発見する ………4
テーマ別のグループで地域を歩き、「すてきな所」と「直したい所」の確認
第二次 交流する ………………4
私の見た地域の「すてきな所」と「直したい所」の発表・交流
第三次 行動する ………………5
自分たちが地域のためにできることに取り組む
第四次 認め合う ………………1
互いの取り組みの発表・認め合い
5.本時の展開案(9/14)
(1)本時のねらい
前時までの交流を通して新しく気づいた地域の「すてきな所」「直したい所」を参考にして、自分たちなりの具体的な取り組みについて考え、計画することができる。
(2)展開案
┌──────────────────┬──────────────────┐
│○学習活動・学習内容など
│○指導上の留意点 │
├──────────────────┼──────────────────┤
│○班ごとに「すてきな所」「直した│○やりたいことと、できることの │
│ い所」の資料の再確認をして、│違いに気づかせる。 │
│自分たちの取り組みの具体案
│
│
│を考える。
│
│
│ │
│
│○自分たちの班の具体案を発 │○他の班からの意見を聞き、取│
│表する。 │り組みに対する方法・準備など│
│
│について考えが深められるよう│
│ │にする。
│
│○次時からの取り組みの計画 │○具体的な取り組み方法だけで│
│をまとめる。
│なく、事前の準備についても確│
│
│認する。
│
│
│○保護者や地域の人々への関│
│
│わり方について意識づける。 │
└──────────────────┴──────────────────┘
参考文献・ホームページ
シチズンシップ教育推進プロジェクト
http://www.citizenship.jp/citizenshipedu/citizenship-edu.htm
「子ども・若者と社会教育」日本社会教育学会編(東洋館出版社)阿久澤
麻理子「ボランティア活動・奉仕活動を検討する視点、イギリスにおけるシチズンシップ教育導入に関する議論から学ぶ」
「社会科教育」(明治図書)2005 1月号 6学年末「このシチズンシップ」で授業する