私の教材発掘  理科・生活科                    

 「冬芽」と「花の数」


 冬芽(ふゆめ・とうが)

 ここ数年、真冬の教室に桜やサクランボ、ラ・フランス、桃、梅などの木の枝を持ち寄りペットボトルで水栽培を行っている。
 こうすると桜の花の咲き方などが、目の前で観察できるし、冬の教室に花が咲くのは、それ自体気持ちがいい。子どもと感動を共にすることができる、またとない教材である。
 小さな冬芽から出るつぼみの変化の観察は、子どもの目を芽に釘付けにした。

 私の前勤務校は東根市にあった。日本一のサクランボの生産量を誇る、佐藤錦の出生の地である。
 サクランボの花を見て育ってきた子たち(小二)に、次のように聞いた。 

 「サクランボの花は、どっち?」
「①だよ。」
「そうだよ。」
「4つくらいの花の芽のうち、一つを残して、全部取っちゃうんだよ。」
「リンゴもそうだよ!」
「先生は、たくさん咲く②だと思うんだけど………」
「そんなのおかしいよ。」
「そうだよ。」
「一つずつだよ。」
「そうだよ。」
 もののみごとに否定された。

 

 観察
 観察を始めると、教室に並んだペットボトルの桃が最初に咲き始めた。
「先生、一つずつ咲くじゃない。」
「やっぱり一個ずつだよ。」
「うんうん。」
 しかし、けいおう桜(冬に花を咲かせる珍しい桜)を持ってきた子が教えてくれた。
「先生の言った通りだよ。」
「あれ?」
「芽は、ここだったの?」
「そうかなあ?」
 まだ咲かないが確かにふくらんできたサクランボや桜の芽の生長が楽しみになった。
 サクランボ や桜は、芽から4つ程度の 花が出る。そして、「ビュ~ン」と伸び てから咲く。この「ビュ~ン」の時期がとてもおもしろい。(この伸びる時期があるため、子どもたちはもとの冬芽の場所を見失ってしまうのである)       
 曖昧に観察させるのではなく、   
┌─────────────────┐
│ 一つの芽(冬芽)から                │
│ いくつの花が咲きますか?           │
└─────────────────┘
と問いかけることによって、子どもの観察力を高め、植物の生命のすばらしさを実感させることができる。 

                      1つの冬芽から1つの花が咲くように見えるが、↑ 

 ↑ 実際は一つの冬芽から数個の花が咲く

 

 花芽と葉芽
 多くの桜やサクランボは、花が咲いてから葉が出る。
 昨年度、保護者の滝口芳郎さん(大きな果樹園を経営されている)に、桃とサクランボの枝をたくさん頂いて、教室で観察を行った。滝口さんが学校に用事があって来られた時には、教室まで引っ張っていって、様々なことを教えて頂いた。専門家は、違う。
滝「このとがった芽からは、葉が出ます。」

沼「え?」
滝「少し違うでしょう。」
沼「あっ!」
 それまで、後から出てくる葉の芽は、当然後から出てくるものだとばかり思っていた。そこに一緒に出ていたなんて。
 物は、真実は、見ようとする目、そして、見える目がなければ見えないものだと改めて教えられた。
沼「一つの芽からたくさんの花が咲くのは、りんごやサクランボなど、ほとんどの果樹がそうなのでしょうか?」
滝「それは……。」
 専門家が見える世界と、門外漢のはてながかみ合ったときの一瞬の空間。

 学びの楽しさは、こんな瞬間に生まれる。

 接ぎ木
「サクランボは、接ぎ木をしています。根の方は青葉桜で、実をつける方は、佐藤錦です。不思議なもので、青葉桜は、それだけを植えても実がつきません。また、佐藤錦は、それだけを植えても根がつきにくいです。」
 お酒の席で滝口さんをつかまえて教えて頂いた。私にとっては、興味深い話である。適材適所、その品種の良いところだけを活用しているうちに、その種そのものの役を果たさなくなったのだと言う。
 また、サクランボは、接ぎ木で増やしてきたため、有名な佐藤錦は、最初の木の接ぎ木で現在の名をなしている。
 永久的に接がれて増えていくのだろうか。接ぎ木とは、遺伝子のコピーで、どこまでも可能なものなのだろうか?
 とすれば、環境による変化は、遺伝子をも変えてしまったのであろうか。

 

 専門家から学ぶ
 東根市で「たきぐち果樹園」を経営する滝口芳郎さんのホームページは、
 http://www.interq.or.jp/sun/yoshiro
  さくらんぼ、もも、りんご、ラ・フランスの花芽や葉芽などが写真入りで説明されている。
┌──────────────────────────────────┐
│ 果樹園では、同一品質のより良い果実をたくさん生産しなくては、なりま│
│せん。現在の果樹栽培では、枝や根のような栄養器官の一部を親から切り離│
│して、その再生力を利用して繁殖する方法(栄養繁殖)を行っています。  │
└──────────────────── 前述ホームページより  ──┘ 
 たくさんの果樹の恩恵にあたっている今日の私たちは、接ぎ木によって伝えられる品質の保全について、もっと学ばなければならないのではないだろうか。
               *
 専門家が「あたりまえ」と思っていることの中に、部外者からの驚きが重なったとき、新たな追究が生まれる。
 ある種の偉大な発明は、常人の思考を超えたところにある。その偉大な発見が、ある専門家集団の中で常識となったとき、その常識は一般人のとどかない所へ行ってしまう。
 一本のりんごの木に多種のりんごの枝を接ぎ木しても、それぞれの枝にもとのりんごの実がなる。私は、家庭訪問で保護者の方に教えて頂いたとき、りんごに対する見方が変わった。
 専門家の常識のおもしろさ。
 それらを子どもの学びの世界に導き出すのも教材研究の楽しさである。
 冬芽の観察は、沼澤清一編著「新教科書を補う発展教材の開発・社会科」(明治図書から出版予定)をご覧頂ければ幸いです。

 

 「授業のネタ 教材開発」(明治図書)2004 8月号