「はてな?帳」 ノート活用ポイント 6年「植物の生長」
1 はてな帳
はてな帳を書く子供達は、
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│①授業や生活の中から「はてな?」と疑問を発見する。 │
│②資料等を活用し、生活全般を通して追究していく。 │
│③追究の過程において、さらに新しい疑問を発見し、新しい追究を始める。 │
└────────────────────────────────────────────┘
と進めていくことになる。
しかし、これは有田学級で育つた子ができるような、かなり高度なレベルである。日常生活の中で、毎日のように「はてな?」を見つけ、追究していくことは大変なことである。子供達には、様々な追究方法を見つけさせることより、「はてな?」を発見させることの方が数倍大変なのである。氏のはてな帳を目標に取り組ませるためには、まずここが大きな問題となる。
2 はてな帳の授業での活用の仕方
はてなを見つける場によって、はてな帳の活用の仕方も違つてくる。
以下の2通りが考えられる。
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│①生活の中で見つけたはてな?の追究
│
│ 教師が学習内容に関連づけて解釈し、説明を加え、授業に登場させる。 │
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子供が生活の中で見つけた「はてな?」の追究が、実は勉強している内容に関係があるのだということを発見させ、授業で広める.意外な驚きとともに、学習の生活化がはかられる。
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│②授業の中で見つけた「はてな?」の追究 │
│ 授業の中でそのまま紹介していく。 │
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この場合は、「はてな?」に共通性があり、学級で集団としての大きな追究ができる。
私は, ①②両方のはてな帳の書き方をさせている。①は、感動が大きいが、個々の個人的な追究となって終つてしまうこともある。もちろん①の「はてな?」が②に結びつくこともある。 しかし、授業に限つていえば、1つ1つの授業がっながり、授業に連続性が出てくるのは、②のようにはてな帳を活用したときである。
3 授業をはてな帳につなげる
はてな帳が書きたくなる授業としては、授業中に調べてみたくなるような間題を子供達に気づかせて終えるオープンエンドの授業が有名である。子供達の追究をはてな帳を通して行えるように誘い込むことができる。
はてな帳を授業で活用するためには、まず授業をはてな帳につなげることから始めなければならない。
私は、子供達の「はてな?」発見が授業の中で行えるように授業づくりを行つている。
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│ 授業中に出た「はてな?」を、多くの者で共有するのである。 │
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全員で1つの「はてな?」を追究していくことは、多様な物の見方を育て、友達の追究方法を学ばせることになる。
我がクラスの授業から生まれた「はてな?」で、子供達が継続して追究を行うことができたものNo.1は、「種」である。5年生の4月の授業で、「大根の種はどこになるか?」という「はてな?」が生まれ、一学期を通して学級全体での様々な種への追究が行われた。これが二学期に入ると「トウモロコシの雄花・雌花」「落花生はどこになる?」等、別な形での植物の追究へと広がっていった。6年生になった今年は、
「じゃがいもの種はどこになる?」から「チューリップの種は?」「タンポポの花と綿毛」へとつながっていった。実際に種のついた大根・チューリップを教室に持ってくる子も出てきた。
日常生活の中で様々な「はてな?」を発見することが難しい子にとっては、こうやって集団の中で気づかせていくことは大切である。こういう経験を通して、普段の生活の中から「はてな?」と疑間を発見し追究することができる子を育てていくのである。
4 はてな帳が授業と授業をつなげる
ていねいに授業の内容をまとめ、きれいにノートを書いても、その場限りのノートであっては、多くの場合意味をなさない。ノートを書くことによって、思考が鍛えられるように導く必要がある。
そのためには, 討論のように意見を戦わせる授業では、自分の考えをノートに書いてから、集団の中で話し合い、友達の考えや疑問を知る
ことが大切である。そうする中で子供達は、自分の考えを訂正し、まとめていくことができるようになるのである。結果でなく、思考の過程が書けるノートでありたい。
同じように, 授業と授業の間の個々の考えをまとめ、生かし、追究していく場としてはてな帳は存在する。
私にとって、授業で活躍させたいノートは、子供達が家庭で「はてな?」を追究して書いてきたはてな帳である。はてな帳を授業に生かすことによって、1時間1時間の授業につながりができ、教室での学習に子供達の生活の場を引きずり出すことができるのである。生活全体を通して追究する、そういう子を育てたい。
ノートは、授業の終着点ではなく、出発点なのである。
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│ 思考の作戦基地としてのノート(有田氏) │
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授業と授業の間が切れないように、授業と授業をつなげるはてな帳の存在が、この言葉に表れている。
5 発表の場
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│ 授業での「はてな?」を追究したはてな帳には、発表の場を与えなければならない。 │
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発表の場が与えられることによって、1人の追究が学級全体に広がり、共有されることになるのである。
有田学級のはてな帳の発表の場は、給食の時間とお聞きした。書く表現と読む表現を両方一緒に行つてしまう。知的な学級である。
私は、授業の中で、はてな帳を踏まえて発言を導くようにしている。また、子供達の書いて
きたはてな帳を、学級通信に載せ、活字による発表も取り入れている。通信は、授業や朝の会などで読み合わせをする。時には、はてな帳を載せた通信だけで授業を進めることもある。
6 実践から
6年理科の植物の成長の1時間目、じゃがいもを扱つて授業を進めた。
「じゃがいもを植える時は、何を植えるか?」教師の質問に、子供達は自信をもって答えた。「いもを植えます。」「種いもといいます。」国語辞典でじゃがいもを調べている子からは、地下茎の説明や、じゃがいもは茎であること、さといもや玉ねぎなどの仲間であること、白い花が咲くなどの発表が出てきた。
そこで、「種いもとは何か?」とたずねた。
子ども達は、種いもは種である、いや種は別にある、の2つの立場に分かれた。そして、意見を戦わせていった。
5年生で、大根の種はどこになるか?を通して、花の後には種ができることを学習している。
「種いもが種だとすると。花は地面の中に咲くのか?」
「落花生のようなものもある……」
立場をかえる子や、分からないと断言する子も出てきた。
2つの立場の主張を確認して授業を終えた。
・種いもは種である派 (24人)
・種は別にある派(14人)
子供達は、家庭に帰り、追究を始めた。
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│ じゃがいもの種はあるのか? │
│ 今日、私は、理科の勉強をしました。最初のタイトルは「じゃがいもを育てよう」│
│でした。……<略>…… │
│ 私は、お姉ちゃんに、「じゃがいもの種つてあるの?」と聞いたら、「種は、ない│
│んじゃない。」と言つていました。 │
│ さとうファミリーに買い物をしに行ったら、種を売つていたのでさがしてみたら、│
│売っていませんでした。でも、その所で、じゃがいもの種いもを売っていました。 │
│ちょっと、芽が出ていました。私は、じゃがいもの種はないのかなあと思いました。│
│お母さんに、「じゃがいもに種はあるの?」と聞いたら、 │
│「じゃがいもの種はあるけど、あまり種なんだよ。でもお母さんは見たことないけ│
│どね。だから、種のかわりに、でんぶんが集まって固まったじゃがいもを、種いも│
│といい、その種いもを植えるんだよ。」 │
│と教えてくれました。でも、私は、あまり信用しませんでした。だって、種は種だし│
│種の役割をしない種なんて、聞いたことも見たこともないからです。やっばり、種│
│なんかなくて、種いもしかないんじゃないかなあと思いました。種いもだって、でん│
│ぷんの固まりだから、養分は… <以下略> │
└────────────────────────────学級だよりコロッケ№12より ──┘
「花は茎から出ていて、実も茎から出ているのだから、茎を通して地中で受粉している。だから、地中に実をつける。」というユニークな自説を唱える子や、分からないので実際にいもを植えてみたという子などもいた。
翌日の理科の授業は、はてな帳をもとにした子供達の様々な発表で盛り上がっていった。
最初は, 種いもは種である派が優勢であったが、授業が進み、種は別にある派が、花の後に種ができる事実をさがし、劣勢をはねのけていくことになった。
「楽しい理科授業」(明治図書)1995 2月号