学校が変わる!厳選・管理職のためのアイデア事例集(全3巻)

第1巻「学力向上アイデア事例集」(教育開発研究所)2005 5月 

3章 指導方法・指導体制別にみる学力向上・授業改善  <小学校>

発展的学習による学力向上・授業改善のアイデア事例

 

①基本的視点・ねらい
 4年社会科で、校内の消火器・消火栓探しに続き、まちの消火器・消火栓探しを行った。そんな時の朝の会で…………
T「新幹線の中に消火栓はあるかな?」
 「消火栓は、大きいからないんじゃないの。」 
 「そんなに大きいものは、新幹線に乗せられないよ。」
T「飛行機には消火栓はある?」
 「飛行機の中が水浸しになるから、消火器なんじゃないかなあ。」
 「水で消したら大変だよ。」
T【ガーン】一生懸命に話し合う子どもたちの中で、一人落ち込む私。まちの消火栓探しから水道管と消火栓のつながりを学んだはずなのに………。
 「水道」「水の流れ」に関しては、個々の断片的な事実を追究させることから入るよりも、一つのテーマで全体像を把握させることによって、個々に関連性をもたせてから追究を導く方がより多面的な学びとなると考えた。
 そこで、市役所に電話して寒河江ダムから水道水が送られてくることを教えてもらった子どもたちに、ダムからの水の旅を見学することを提案した。

 

②取り組みの実際   
 水の旅 まず、学校からバスで70分の所にある寒河江ダムに行き、そこから①~⑤と水の流れに従って、一日かけて水の旅の見学を行った。

      ①月山湖・寒河江ダム      

          ↓ 

      ②水ヶ瀞水力発電所        
          ↓

      ③西川浄水場              

          ↓

      ④水管橋(四カ所)        

          ↓

      ⑤神町上水道ポンプ場      

 

◆①寒河江ダムの第一の目的は、洪水から守るためということを説明していただき、「洪水」という得体の知れないものの存在に気づく子どもたち。ダムの上から下を見下ろし、そして、下に降りて見上げた時、その偉大さに改めて感動することになった。

◆②発電所では、大きな音を出して回るモーターに驚き、水の流れでモーターを回して電気を作ることを知った。(このため、理科の乾電池を使ってモーターを回す実験では、モーターを手で回して電気ができるという逆転発想が子どもの中から容易に生まれることになった。)
◆③浄水場では、水をきれいにする壮大な設備を水の流れにそって歩きながら、ついさっき見てきたダムの水の変化を目の当たりにした。できたての水を飲んだ時の感動は大きかった。水道管の模型の中を歩いて、初めて水道管を意識することができた子も多かった。
◆④ダムからポンプ場まで、地中を走る水道管上を可能な限り通って行った。
 橋を渡るたびにバスを止め、バスから降りて水道管を探させた。水管橋は、地中では見えない水道管を唯一見ることができるものである。最上川を越える村山橋は、橋の両脇に通る水道管が見えた。倉津川では川を越える水管橋の下に立たせて、みんなで並んで水管橋を見上げた。
「ここまでして水を運ぶのかあ。」
「浄水場からここまでつながっているんだね。」
◆⑤神町上水道ポンプ場。ただの建物としてしか見ていなかったものが、浄水場からのつながりで捉えることができた。
 その一ヶ月後、近くの田んぼの水の流れ、白水川の水の流れを見学に行った。川で水遊びをしながら、寒河江ダムから村山橋を越えて上り来る水道水と、最上川に向かって流れゆく白水川の2つの逆行する水の流れについて考えた。水は、高い所から低い所に向かって流れるという自然の摂理と、それを逆行させる人間の努力について学んだ。
 すると、自分の家の水道について疑問を持つ子が出てきた。
┌───    ぼくの家の水はどこからきているの?   ──────────┐
│  家の水は、水道と自家水を使っています。自家水は、畑やおふろなど │
│ に使っています。水道水は、おふろいがいぜんぶ使っています。みやた │
│ 橋には、水道かんがなかったけど、上野台には水道水がとどいていると │
│ いうことは、どこかに橋をわたる水道かんがあるんだな。                │
└────────────────  (O・Kくん)  ─────────┘
 ポンプ場から、どうやってどこを通って水が家に来るのかについて疑問をもった子たちは、やがて、自分たちの地区にある簡易水道の存在を調べて自由研究にまとめていった。そして、それが、学年の総合学習での簡易水道見学へとつながっていった。その見学では、近くにあった土砂崩れなどの水災害の実態まで目の当たりにすることになった。水を作り、水を守る人々の姿、大切な水が引き起こす水災害から、水そのものの存在を再確認することになった。さらに一希くんは、父親の勤務するフィリピンに行って水道事情について調べ始めることとなった。
  ※神町ポンプ場からK君の家まで行くには、白水川を渡るみやた橋を通らなければならない。

③管理職にしてほしいこと(学習環境等支援など)
 さて、こうした実践ができたのには、いくつかの条件があった。
 それが、まさに管理職にしてほしかったことでもある。
 まず、第一に、行政と管理職の教育現場を捉えた良好なつながりである。
 寒河江ダムまでの片道70分間の移動。その時々にバスを止めて子どもの観察ができるような融通を効かせて一日中バスを借りれば、かなりの経費がかかる。こうした授業を考えても実践できないのは、経済的面からの理由が大きい。
 しかし、本実践(H14年度東根市立東郷小学校)で子ども・保護者に経費の負担はない。
 東根市では、登下校で使用するスクールバスを、使用していない時間帯に借りることができる。運転手の経費・燃料費、全て市が負担してくれる。体験学習などで、子どもが学びの場を広げるには願ってもない条件である。(私が現在勤務する尾花沢市でも同様にバス借用ができる。)
 総合学習がスタートすると、現場からの声を集め、当局に働きかけて下さる管理職の方々。現場の動きを察知してシステムを作り後押しして下さる市行政。それらを抜きにしては本実践はできなかった。
 第二点目は、動きに合わせた柔軟な体制作りである。
 実際のコースの下見などは、勤務時間外、また休日でもできる。
 しかし、水道管がどこを通っているかなど、市役所の担当者に教えてもらうには、勤務時間外では難しい。空き時間など融通を利かせて日中に足を運ばなければならない。
 専門家に教えてもらいながら教材研究を行う時間がどれほど教師の力量を高めるか、狭い視野を広げることになるかを知っている管理職の方は、授業者の動きに合わせた柔軟な受け入れ体制を築いて下さる。

 

④今後の課題
 体験学習は、子どもたちにドラマを生む。用意周到な計画は、多くの学びを導くことになる。しかし、本当は、授業者が意識しない方向へ展開したとき、つまり、子どもの発言・追究などから発展して単元計画を飛び出し、学びの中に教師も引き込まれたときに、大きなドラマが生まれる。ドラマは、ハプニングの連続であり、そこに授業者としての大きな喜びも生まれる。
 こうしたときに、「年間当初の計画にあったのか」「そんな場当たり的なことで子どもに力がつけられるのか」と否定してしまっては、学びの楽しさを実感させることはできない。
 その1つの体験活動のねらいを単発に捉えず、一年間のスパンで授業者がどのようなねらいをもって子どもたちをどう育てていこうとしているのかと長期的な目で捉える管理職のもとでは、子どもと共に教師が伸びる。
 幸いにも私は、これまで理解のある管理職の方々のものとで仕事をすることができた。幸せ者である。だからこそ、こうして述べる意義を感じている。
                       (尾花沢市立寺内小学校教諭 沼澤 清一)