学級づくりで「規範意識」をどう育てるか 中学年の実践
ルール化よりも内面から
前担任からケンカ後の仲直りの仕方、
「ごめんなさい」「うん、いいよ」
の指導を受けた子たち。一時的な解決を図ることが子どもの中に乱れを生じていくことになると教えられた……私の短くない教員生活の中で、1・2を争う荒れた学級を担任したときの記録(学級通信)から。
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【子どもは日々成長していきます。
大きな成長の前には、時には涙も必要です。いや、そういう時こそ、大きな根っこが大地に根付く時でもあります。
4月25日(火)五時間目の体育が始まろうとしている体育館での出来事。
B「先生、P君に蹴られました。」
体育館に入るなり教えられました。どういうことなのかP君を呼んで聞きました。
P「Y君にB君を追いかけるように命令されて、追いかけているうちに蹴りました。」
『そうか、Y君の命令を聞いただけなんだね。』
P「そうです。」
P君は、安心したような表情でした。なので、思いっきりどなりつけました。
『Y君の命令は何でも聞くんだね。悪いのはY君なんだね。』
体育館中に響くような声でどなりました。
P「…………」
P君は涙が流れてきました。しかし、続けました。
Y君を呼んで話を聞きました。
『どうして命令なんかしたの?』
Y「あっ、間違ったの…………」
『間違って命令するのか!』
学年での整列が始まっています。
B「先生、あのね、その前にもね2人で両方から壁に押さえつけられました。ぼく、何もしていないのに。」
『へぇ~、そうなの?』
P「…………そうです。」
『それは、イジメだね。』
イジメと言われて驚いたような2人は、涙を流しながら立っています。
『どうすればいいと思う?』
P「あやまります。ごめんなさい。」
B「うん…………」
『許しちゃうの。そんなことをされて、許せるの?』
B「いやだ。許せない。」
P君は、いつものように「ごめんなさい」「うん、いいよ。」という形ばかりの仲直りの方法をとったのですが、私はこれに前から疑問をもっていたので、ここでB君の言葉に割って入りました。
あやまれば許してもらえる。その方法を学ばせることは意味のあることかもしれませんが、形ばかりの許しっこが、暴力を助長しているように感じられます。
『許せないって。2人で1人にやりたいことをやって、最後にごめんなさいだけでは許せないって。ひどいことをしたもんね。』
その後、体育が終わってから、教室で着替えをするB君とP君に言いました。
『一週間ぐらい様子を見てからにしたら。それから考えたら…………』
B「うん、そうする。」
P「わかった………。」
どうして先生が叱ったのか、何がいけなかったのか、終わりの会でみんなに説明をしながら話しました。
翌日、保健室で内科検診がありました。早めに終わった男子から教室に戻りました。私は、女子が終わってから教室に向かいました。すると、涙ながらに訴えて来る子がいました。
K「先生、Y君とJ君がぼくのことをエロって言う~。」
K君が、女子が着替えをしているところをじっと見ていたと2人でからかったのだそうです。
『みんな一緒に保健室にいたのに、どうしてK君にだけ言ったのですか?Y君、昨日はB君で、今日はK君なの。次はどの子にするの? 順番でしていくの?』
Y「………ううん………」
さすがに昨日の今日です。言葉がありませんでした。立場の弱そうな子だけへの非難は、日々変わりありません。
『ところで、P君は、どうしてまざらなかったの?一緒に言いそうなものだけど』
みんなの目がP君に向かいました。P君は、神妙に座っています。
「だってね、ぼく、先生達と約束したもん。」
P君は、きっぱりと言いました。
すると、みんなから拍手が起こりました。何か良いことがあると拍手が起こるようになってきていたのですが、この時は、実にドラマチックでした。
たくさんの拍手を受けながら、P君は照れくさそう。私は、P君の机まで行って握手しました。拍手はなかなかやみそうにありません。この時、誰よりも大きな拍手をしていたのはB君でした。
失敗に気づき自分で自分を押さえたP君。それは、許されなかったからです。B君の悔しさに歩み寄ったからです。簡単に許されて後終わりであれば、何の進歩もなかったことでしょう。
失敗があったからこその成長です。失敗は成長の大きなきっかけになります。
翌日の休み時間、K君と、Y君、J君は仲良くマンガを書いて遊んでいました。これもまた、子どもの姿です。】
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前担任から教わったケンカでの仲直りの仕方「ごめんなさい」「うん、いいよ」。それを子どもたちは忠実に守っている。
(謝ればいい)(許さなければならない)という寸時の解決による安定を保つルールが、子どもたちの中に強弱関係を築きあげてきた。何より善悪の判断を必要としないやった者勝ちの意識を育ててきた。
「許せない」という友達の気持ちを理解させることが必要だ。そして、時には、子どもを追い込むことも必要なのである。優しさだけでは、子どもは育たない。
内面を意識させないルール化は、何の意味を持たないばかりか、大きな弊害を伴うということを教えられた。
心を育てる学級経営(明治図書)2008 4月号