「試食の『?』で子どもの追究を導く」
3年生を初めて担任した。
4月の公民館の学習では、実際に自分の足を使って調べに行く子どもはほとんどいなかった。6年生を卒業させたばかりの私は、3年生だからと半ばあきらめ気分であった。
しかし、子どもたちは、学校のまわり探険・地図作りでは、実に楽しそうに意欲的な活動を見せた。理科の虫の学習が始まると、おもしろいように追究をはじめた。
実物を目にして、体験させることさえできれば、追究を導くことができる。3年生の子どもの実態を知った。
そのためには、この単元では、どうにかして子どもたちの足を大型店に向かわせなければいけないと思った。
そんな時、ふと有田和正氏の言葉を思い出した。
「試食を食べてくることを宿題にすると、子どもたちは喜んでス-パ-に行く。やがて、どうしてただで食べさせてくれるのだろうか?と『はてな?』をもち追究を始める。それまで追究することのなかった子でさえ、楽しんで追究を始めた」
多くの有田実践の追試をしてきた私であったが、試食の実践・授業記録を有田氏の著書で見たことはなかった。導入もプランも我流であるが、子どもたちを自分の足と目で追究させるために、試食を中心にして授業づくりを行うことにした。
1.単元の導入
8月31日、単元の導入として、教科書や国語辞典などを使って商店と大型店の違いを確認した。そして、知っていることを発表させ、板書していった。
┌──────────────────────────┐
│ 商店街‥‥‥店がいっぱいある所 │
│ 三日町商店街 本町商店街 │
│ 大型店‥‥大きなお店(ス-パ-) │
│ ヨ-ク ジャスコ 長崎屋 ジョイ しまむら │
│ サンワ ヤマザワ キング よつば ‥‥‥‥‥ │
└──────────────────────────┘
商店街での様子を話す子。大型店で買い物をした時のことを話す子。子どもたちは、どこにどんな店があると楽しそうに発表してくれた。
授業の最後で、
『ス-パ-には、やさしい人ばかりが選ばれて勤めているのです。ただで物をくれるやさしい人さえいます』
と話した。すると、3年生の陽気な子どもたちは、
「お店は、物を売る所だから、ただでくれる人はいない」
「そんなことはない」
「うそつき~」
「それは、どろぼうになっちゃうよ」
と言い出した。しかし、少しすると、
「おいしいですよ~と言って、食べさせてくれるところでしょ?」
「ウインナ-をくれた人がいたよ」
「コロッケを食べさせてくれたよ」
と楽しそうに話し始める子が出てきた。そのまわりで不思議そうな顔をして聞いている子がたくさんいた。
「ただでくれるの?」
「先生、本当?」
『どういう所にあるの?』
「食べ物を売っている所。ヨ-クでウインナ-を食べたよ」
『よつばにもある?』
「ないよ。そこには」
「電気を使う物を売っている店だからだよ」
『ジャスコは?』 「○」
『長崎屋は?』 「○」
『ジョイは?』 「Х」 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
板書の大型店名に試食をおいている店に○印、おいていない店にХ印を書いていく。いろいろ意見が出るうちに、どうやら食べ物を売っている店にあるようだということになった。
どうして試食を食べさせるのかについては、ふれない。
ここで話を出してはおもしろくなくなる。とりあえず、
【ただで食べさせてくれる所がある】
それを確認して、その場に子どもが行ってみたくなるようにすることが大切であると考えた。
2.終わりの会で
終わりの会の連絡で、次のように話した。
『今日は、先生からみんなにプレゼントがあります』
「ワ-イ」
『すばらしい宿題です』
「エ~~~ッ」 「いらない~」
『試食を食べてくることです』
「ワ-イ。ワ-イ」
『お家の人が買い物に行く時にくっついて行って、いっぱい食べてきてください』
「でも、お母さん、仕事の帰りに買ってきちゃうよ‥‥」
「今日、行かないかもしれないよ」
『市内の学校のきまりで、みんなはお家の人と一緒でないと大型店には行っていけないことになっていますが、特別に友達同士でもいいことにします』
「うわ-い、ヤッタ~」
「先生、かっこいい!」
「そんな宿題でいいの?お母さん信用しないよ」
「おこられちゃうかもしれないよ」
『んじゃあ、お店の様子も見てきて日記に書いてくればいいよ』
「いっぱい食べてもいいの?」
『これは、立派な宿題です。堂々としてきなさい』
「ワ-イ」
楽しいことは子どもたちの活動を導く。木曜日という平日にも関わらず、たくさんの子が試食を食べに行った。
『家に帰ってから、友達同士でス-パ-に行く予定の人は後ろの黒板に行く場所と名前をまとめて書いて行くこと。それから、お家の人に断わることも忘れないように』
子どもたちの動きを知るためと、万が一のことを考えてみんなで確認した。幸いに、交通事故や問題となる行動はなかった。そして、この板書によって、子どもたちの友達関係の動きをつかむこともできた。
3.翌日の授業で
9月1日、昨日食べてきた試食品の発表から授業を始めた。この後も、毎時間昨日の試食のメニュ-発表から授業に入った。発表が得意でない子も自分が食べてきた物の発表ならできる!発表数が増える。授業に活気が出る。
カニの天ぷら、にく、きのこあえ、メンタイコ‥‥‥‥
どこでどれがあったか。
どのようにおいてあったか。
本当にただであったか。
「あったかくて、おいしかったよ」
「3つも食べちゃった」
「いいなあ。今日は、行くぞ~」
┌─8月31日(木)─────────────────┐
│ ヨ-クには、ししょくコ-ナ-があります。わたしは│
│とくに、かにのフライがすきです。でも、このごろない│
│ようです。が-んとがっかりきます。‥‥‥‥‥‥よる│
│に、おかあさんとヨ-クにいきました。ししょくコ-ナ│
│-でかにのフライをさがしたら、ありました。パクッ。│
│おいしかったです。 │
│ わたしは、見た。まえにおばさんがいました。へやに│
│入っていました。なにしているのかなあと思ってみてみ│
│たら、フライをあげてたようでした。じゃあ、いまわた│
│しがたべたのは、あげたて~。やったあ。ず-っとおい│
│といてカビないのかと思ったらおかあさんが、「大がた│
│店はとりかえるのよ。」といっていました。 │
└─────────(Yさん)───────────┘
Yさんの発表から、
☆ス-パ-には、かくれた所に部屋がある?
☆試食は、どうして作り立て?
☆古くなった試食品はどうする?
☆店員さんは、どういう仕事をしているか?
などの「はてな?」が生まれた。
各店の試食のメニュ-表を作り、係の子どもに毎時間書いてもらい教室に掲示した。
試食は何曜日に多いか。
どの店が多いか。
どういう試食が多いか。
どの時間が多いか。
二週間もするとそこからいろんな事が見えてくる。
社会科の授業のない日は朝の会などで話題に取り上げ、追究をうながす。
一人一人が見てきたことを発表し、みんなで話し合うことを通して、試食から新しい「はてな?」が生まれた。
┌─9月1日(金) <授業後の日記から> ─────┐
│ 今日、Mちゃんと、Tさんと、Kちゃんとわたし、4人 │
│でヨ-クにいってきました。ヨ-クには、Lくんと、N │
│ちゃんがいました。お母さんときていました。ヨ-クの│
│人が、わたしたちにやさしくおしえてくれました。そし│
│て、ヨ-クの人に、こうききました。「にんずうは、な│
│んにんですか」そうしたら、「だいたい380人です」 │
│といいました。わたしはびっくりしました。 │
│ つぎに、し食コ-ナ-にいってきました。そこには5│
│つもありました。まず1つはかに、2つ目はつけもの、│
│3つ目はいか、4つ目はたらこ、5つ目はきゅうりでし│
│た。でも、たらこはからっぽになっていました。ヨ-ク│
│ではたらいている人は、ぜんいんネ-ムをしているんだ│
│そうです。小さい子もよめるように、ネ-ムはみんなひ│
│らがなだそうです。ヨ-クができたのは、へいせい2年│
│5月23日だそうです。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ │
└──────(Hさん)──────────────┘
前の授業で出た「店員さんはネ-ムをしている?」に対しての追究である。この後、さらに店員さんの服装について話題が広がった。追究が連続していくことになった。
4.試食の導入を通して
ス-パ-の学習に限らず、新しい単元に入ると、子どもたちから課題をさがさせ、その課題をみんなで考えていこう。調べていこう。そういう授業を目にする。
例えば、この単元でいうと、次のようになる。
「ス-パ-では、どのような工夫をしているでしょうか?」
機転のきく知識の豊富な子が活躍して終わりとなる。
学習は、子どもたちが自分の目でじっくりと見て考え、自分の口で質問して新しい発見をしながら進めて行きたい。
自分で体験して、そこで生まれる「はてな?」を大切にしたい。課題は、その後である。
そのためには、子どもたちをどうやって自分の足で見に行かせるかが問題となる。授業のネタの登場となる。
この後も子どもたちは遊び気分でス-パ-に行き、そこで試食を食べているうちに、いつの間にかス-パ-の「はてな?」にのめりこんでいった。『試食』を授業づくりの中心においたことは大成功であったと考える。
「授業づくりネットワーク」(学事出版)1997 1月号