「子どもの危機」保護者と連携して荒れに向き合う
 日々の「気づき」をもとに

 一年生のRさんは、しっかりして的確な仕事ぶりが目立つ子であった。気の強さを体全体で表すこともあったが、みんなの前に立つことは極度に嫌った。緊張して顔が真っ赤になって声が低くなってしまうのである。私は、Rさんの字が上手なところ、そして、本人も密かに自信を持っているようなところに目を付け、習字のコンクールに応募するように薦めた。
 春先の全国教育書道展では、クラスで別の子が推薦に選ばれRさんは金賞に終わった。それが悔しかったのであろう、全国書道絵画展への意気込みはすごかった。
 Rさんの芯の強さが前向きな場で発揮される様に願っていた。気の強さを認められる場で発揮できず、陰に回って陰湿な行動をとる様な子にはなってほしくなかった。
 一学期最後の授業参観が近づいた。一人一人がみんなの前でお家の方と向き合って発表することになっていた。
 授業参観当日、教室に入るとすぐに「頭が痛いので、お母さんが三時間したら迎えに来てくれます。」とRさんが話しかけてきた。保健室で熱を計ってもらっても平熱、朝の様子も辛そうには見えなかった……ひょっとしてと思った。
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│ 今朝は「発表がうまくできない。」と泣き出し、学校を休みたいと言い続けています。どうにかし│

│て行かせたいのですが……。今七時二十五分、登校班のお姉ちゃん達は行ってしまいました。      │
└───────────────────────────────      7月24日 ──────┘ 
 案の定、連絡帳にお母さんからの言葉があった。Rさんには、熱がないので大丈夫じゃないのと話し、お母さんに確認してあげることを約束して職員室へと向かった。お母さんに電話をかけたところ、授業参観での発表が嫌で暴れたので、三時間目が終わったら迎えに行くことを約束して登校させたということであった。芯の強い子である。お母さんの立場も辛い。
『お母さんはお仕事(八百屋さんをしている)があって電話に出られなかった、ということにします。忙しくなって迎えに来られないかもしれないとRさんに伝えておきます。なんとか発表できるようにさせたいと思います。どうしても無理なときは中間休みにもう一度お電話致します。Rさんには、お母さんと私は電話で話をしなかったということにしておきますから、よろしくお願い致します。』
と話した。二時間目に子ども達に、授業参観の発表の練習をさせた。Rさんは友達にまざって練習を始めた。
私『うん、上手だね。』
R「……はい。」
私『お母さん、今度はお店にいると思うけど、迎えに来てもらう?』
「Rちゃん、帰っちゃうの?」。
「お母さん楽しみにしてるんじゃない。」 (友達が話しかける)
R「うん、がんばってみる。」
『じゃあ、お母さんには授業参観の時に来てもらおうね。』
 その後、ことの次第をRさんのお母さんに電話した。
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│ 今日で一学期も終わりですね。昨日は本当にありがとうございました。二度も電話をくださり、あ│

│りがたく思いました。おかげ様で娘も皆と同じ様に発表することができました。少し自信もついたの│

│ではなかったかと思います。夏休み、楽しく過ごさせてあげたいと思います。二学期もまたよろしく│
│お願い致します。先生もゆっくり休んでくださいね。                                 │
└───────────────────────────────────  7月25日    ──┘
 夏休みに入り全国書道絵画展の審査結果が届いた。Rさんはみごと市長賞に選ばれた。
 表彰式への参加も終わったある日の夕方、「Rさんに、大筆塚まつりでの筆への感謝の言葉を言う代表になって頂けないでしょうか。」という連絡が市役所から届いた。毎年、全国書道展の入選者の一年生から選ばれるのだという。緊張する子である。大勢の前で感謝の言葉を言うなんて………。
 家庭訪問を行い家族も含めて話し合いをした。「がんばってみます。」とRさんの明るいひと言に驚かされた。
   *
 いつも思いやりを持って友達に接し、物腰柔らかく友達に教えてあげることのできるFさんは、友達からの人望が厚い。学級をいつも前向きな方向に導いてくれる子であった。
 そんなFさんが、読書感想文の大きな全国コンクールでの数名の一年生入選者の中に入り、新聞にも名前が発表された。
 しかし、困った。「当事者の本人は、大勢の前で表彰されるのははずかしいと言って、(表彰式に)行きたくない気持ちが強いようです。」と連絡帳にお母さんの言葉があったからだ。
 Fさんには、もっともっと自分のすばらしい力に気づき、自信を持って活躍の場を広げてほしいと思った。そこで、Rさんにお願いしてFさんと三人で相談室で話をすることにした。
『Rさんも前の表彰式の時、緊張したでしょう?』
R「うん!」
『でも、感謝の言葉もがんばったよね。がんばってみて、どうだった。』
R「とっても良かった。」
 私とRさんとの話を聞きながら、Fさんの表情が和らいできた。
 お母さんと一緒に本を読んで書いた時のこと、入賞者の載った新聞を見て家族で喜んだときのことなど、Fさんに話してもらった。私とRさんは『すごいね。』「本当だ。」と言いながら聞いていた。次第にFさんの表情が笑顔に変わってきた。
『表彰式、どうする?』
F「うん、行ってみる。」
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 嘗ての荒れは、現象的なこととして表れる以前にその前兆を見せていた。新しい荒れは、そうではない。教師は、現象となって表れる前の小さな小さな出来事により敏感になって対応しなければならない。そして、子どもたちを日の当たる方へと向かう集団に育てなければならない。
 そこでは、教師の手立ても大切だが、的確に「気づき」を伝えて下さる保護者の存在の大きさに気づかされることが多い。
 保護者との連携は、日々の些細なことをこそもとにして築かれなければならない。子どもの危機は、本当に小さな所に潜んでいるのであるから。
   現代教育科学(明治図書)2006 2月号