友達の長所を認め合う指導法
────文集「みんなの長所」の作成などを通して───
山形県新庄市立泉田小学校 沼澤 清一
1.はじめに
新採より5年間の中学校教員生活から、小学校勤務となり戸惑いを感じながら5年生の担任を始めた。中学校での経験から生徒指導の大切さを痛感し、小学校での指導の重要性を強く感じながら4月より勤務した。しかし、本学級を担任して素直な子どもが多いことに驚き、「この子達も?」という不安と疑問から、改めて小学校での指導の難しさを感じた。
私の担任した5年1組は、男子12名、女子11名、計23名(学年2学級編成)であった。これといった問題もなく素直な子どもが多く、前向きに物事に取り組む姿が目に付いた。男女の隔たりが少なく、仲良く生活していた。反面、児童数が少なく、学級編成による変化も少ないことから能力のある子ども・発言力のある子どもに引っ張られていく傾向にあり、自分の個性を発揮できずにいる子どもが目に付いた。
一人ひとりが個性を発揮し、存在感をもてる学級にするために、次の3点を学級経営の
柱として取り組んだ。 昭和63年度、5年1組
平成元年度、6年1組 (持ち上がりの学級)
※学級経営の柱 (2年間継続しての取り組み)
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│①価値観の多様化を図る。 │
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学力・運動能力による評価が重要視されがちな今日、学校生活・家庭生活などでの出来事や子どもの感想などを多く取り上げることにより価値観の多様化を図りたい。そして、子どもを認める場(子ども同志・子どもと教師)を多く提供することによって、子ども同志がお互いを認め合い、気持のつながりを強くし集団の意識を高めることは、今日問題となっているいじめ・非行につながる孤立感をなくしていくことになると考える。
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│②お互いの良い所を素直に認め合えるようにする。 │
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高学年になると周りの者が見えてくるため友達の長所をねたみ、自分を高めようとする前に欠点を指摘し揚足を取る者が出てくる。まず友達の良い所を認めることから、友達の理解を深めさせたい。
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│③子どもの長所をさらに伸ばす。 │
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子どもの毎日の学校生活での満足感は、「みんなと同じことができる」「みんなのできないことができ、そのことによってみんなから認められる」からくる。一人ひとりの長所を見付け、さらにそれを伸ばしてやることがほかの面をも向上させることにつながっていくと考える。
2.実践の概要
昭和63年度5年1組、平成元年度6年1組(持ち上がりの学級)
毎日の生活の中で友達の良い所を認める指導を常に配慮してきた。その中でも特に、次の5点について説明する。
Ⅰ みんなの長所 文集 5年生の2学期作成
Ⅱ 「~君、ありがとう」 カード 〃 12月22日
Ⅲ みんなが良くなるために アンケート 〃 12月23日
Ⅳ 「~は大きい」 作文 6年生の11月14日
Ⅴ みんなの長所Ⅱ 文集 〃 三学期作成
3.実 践
Ⅰ.『みんなの長所』
①クラスのみんなから
1.B4版の更紙に学級名簿を印刷し、友達の良い所を具体的に3つ以上書かせる。
学級指導の時間を2時間使い(9月22日)残りは宿題(3日間分)にした。2時間、3
時間考えたという子がざらであった。
感想 今まで一緒にいた友達でもいざその人のことを考えたら、なかなか浮かんでこな
いことが多かった。情けなかったけど、よ~く考えたら浮かんできた。本当に一
生懸命考えた。大変な宿題だった。 (日記より)
感想 友達がどんなことを書いてくれたのか早く知りたい。けど、不安だ。(日記より)
2.一度集め、長所になっていないようなものを書き直させる。
長所だけでなく短所まで書いた子 1名
優しい、元気がある等を並べて何人にも書いた子 2名
この3名は友達の少ない子どもである。友達の良い所が見えない子は友達が作りにくい
と感じた。
3.担任の分も含めて24枚を重ねてカッターで切り、一人分ずつホチキスで綴じ各班の班 長に渡す。(生活班) 本学級は4・4・4・4・4・3の6つの生活班で構成されて いる。
4.班長は責任をもって班員の長所をまとめ、B6版に切ったファクス原稿用紙に書く。
(一人分で見開き2ページにして) あいているところにはイラストを書いてもいいことにする。テキパキと動ける者が長所をまとめ、字の上手な者が清書し、絵の上手な者がイラストを書いていく。自然に子ども達がそれぞれ得意な仕事を割り振り助け合いながら仕事をしていく。
②お父さん・お母さんから
保護者に自分の子どもの長所を具体的に 3つ以上書いてもらう。
書いてもらったものを縮小して使用
③お父さん・お母さんのすばらしいところ
最初お父さん・お母さんのすばらしいところとしたが、子どもから「おばあちゃんのは ?」「にいちゃんのは?」と聞かれ、家族の長所とした。うれしい誤算だった。
④自己紹介のカードを書く。
名前、町内、委員会、係、得意教科、趣味みんなに自慢できること など
※みんなに自慢できること<全員>
サッカー、将棋、水泳、卓球、好き嫌いがあまりない、ゲーム、本読みが早い、
剣道、オセロ・漫画書き、図画、けっこう世話がうまい、工作・リフティング、
(男子)
色が黒い、足が速い、作文、手芸、踊るのが好き、ネコと話ができる、みんなに
少しやさしい、動物が好き、長い本を早く全部読める、ネコを大切にしている、
絵書き (女子)
牛乳ビンのフタ投げ・囲碁の県代表(担任)
②③④で見開き2ページにして編集
⑤原稿を集めて印刷する。
B6版の原紙4枚をセロテープでつなぎ、B4の中質紙に裏表印刷。
裏表に印刷することによって、必要以上の厚さにならず、自分で製本する時に四面をカットしやすくする。ただし、上下左右の印刷位置の確認、裏表の印刷の位置がずれてはいけないなど、細い仕事になってしまう。
4月から子ども達には学級だよりの一部を書かせているため、字が薄いときれいに印刷できないということが分かってきたため、この頃になると「先生、このくらいだと印刷だいじょうぶ?」「これ薄くない?」と自分から字の濃さ、ていねいさを聞きに来るようになっていた。
実際、印刷する時になって、一番困るのが薄く書かれた字である。
⑥印刷しB6サイズにカットした紙をページ毎に並べ、みんなで一枚ずつ取っていく。
単調で子ども達が一番いやがる仕事である。 (10月27日、3・4校時)
⑦表紙を印刷
表紙(レザック)にプリントゴッコで印刷(10月29日、放課後2時間)
原案はみんなに募集し、みんなで選んだ。プリントゴッコでカラーに印刷されるのをみて歓声がおこる。私が印刷していくのを手渡しで一枚一枚机の上にていねいに並べていく。(翌日まで一晩インクを乾かす。)全員で取り組み時間もかかったがどの顔もとても楽しそうであった。このあたりから本当に本ができるという気持ちがわいてきたようだ。
⑧製本・カットする。 (10月30日)
総数164ページだったので自分で製本・カットすることができた。
子ども達は初めてだったので時間もかかり、失敗作も多かった。‥‥‥‥‥⑥の段階
・50冊作り失敗作8冊(落丁3冊、二重2冊、左右逆綴じ3冊)
⑨配布 (10月31日)
※ 夏休みの宿題「夏休みの出来事」も巻末に加えた。
『みんなの長所』を作っていく中で、協力して作業をする姿が、自然に子ども達の中に
できあがっていった。
Ⅱ.「~君、ありがとう」 (昭和63年12月22日)
「~(君・さん)ありがとう」と書いたカードをB4版の色画用紙に印刷。
友達に対するありがとうの気持ちを全員で書いた。書き終るまで2時間必要。
全員机にすわり、流れ作業のようにカードが順番に回っていく。
子ども達と約束したことは、
・上から順に下に書いていくこと
・上に書いてあることと、同じことは書かないこと
・本人には、見せないこと
の3点だけ。
真剣に考え・書く姿は、テスト以上のものがある。友達の良いところを書く・自分の良いところを今だれかが書いてくれているということが、何よりも、素晴らしい学級の雰囲気を作り上げていく。何とも言えぬ、なごやかな雰囲気になる。
クリスマスのプレゼントとして全員に配った。
Ⅲ.みんなが良くなるために アンケート (12月23日)
7つの項目にあてはまる友達に〇をつけていくアンケート。一時間くらいで書く。
担任が集計。
項目ごとに2~3名程度、二学期終業式の日に賞状を贈ってみんなでたたえた。意外な子がみんなの支持を得ていることに驚くとともに、うれしそうな本人達の笑顔が印象的であった。普段何気なく見ている友達の行動を振り返ることにより、自分の行動を反省し、正しい行動に気付いていくことにもつながった。
Ⅳ.「~は大きい」 (平成元年11月14日)
道徳の学習 「勝 海舟」‥‥‥‥みんなのどうとく6年(学研) (10月31日)
「母は大きい」‥‥‥「中学生は何を‥‥」(光文社刊) (11月7日)
で、高い視野に立った考え方・大きな心、について学習したあと、「~君は大きい」
「~さんは大きい」「お父さんは大きい」などのテーマで作文を書かせた。
友達の素晴らしい所を見付け、書いている子が多く見られた。
「みんなの長所」や「~君、ありがとう」が一人ひとりの長所を多く見付けようとするのに対して、他人の長所を深く見つめ、認めることができた作文であった。
※注 論文では子どもの文をコピーして掲載したが、ここでは活字にして載せる。
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│ T君は大きい
O・S │
│ ある体育の時間、私達は、先生のみつけてきてくれたゲームをしました。そのゲーム│
│はしんぱんがひつようです。野球とにているものです。その時、自分達はきちんとなら│
│んだなと思っても、しんぱんは、「セーフ。」と発表したのです。みんなは、くやしくてくや│
│しくてたまりません。みんなもんくをいっていました。でも、その時、T君は、 │
│「そんたもんくいってねくたっていいがら。」
│
│とみんなをしかりました。みんなきいていた時は、私と同じに、 │
│「なんだなべ。くやしって思わねんべや。」
│
│と思いました。でも、私は、その後すぐ「そうだな。」と思って、頭のスイッチが入れかわ│
│ったように軽い気持ちになりました。そして、私達のしんぱんはS君、T君がやってくれ │
│たのです。その時は、T君、S君が相手のチームにもんくをいわれていました。私達は、 │
│くやしくて相手にもんくをいってしまいました。その時、 │
│「そんたないいがら、きにすんな。」
│
│といってくれたのは、やっぱりT君でした。みんなこの時間は(に)けんかにならなかった│
│のは、みなT君のおかげだと思います。私は、その時T君が注意してくれた時の顔は、 │
│今でもしっかり覚えています。相手のチームには、T君のようにみんなを注意してくれる│
│人はいなかったのでしょうか。
│
│ その日の帰りの会の時、先生は、ソフトボールクラブに入っているT君のその日の日記│
│をみんなに読んでくれました。その日の日記には、 │
│「みんなもんくをいっていますが、クラブは楽しむためにあるもので、勝つためにあるもの│
│ではない。みんなは、先生が入ったからまけたのだなどといっているが、ぼく達がたのし│
│いように、先生も楽しいからまざってやっているのです。」 │
│ 私は、この日記を聞いた時、体育の時間をおもいだしました。それは、体育の時 間、│
│私は心の中では「先生がまざったら、しょうがない。」と思っていました。そんな思いで自│
│分のくやしさをおさえていたような気がしたからです。その時は、私の心になにかがつき│
│ささってきたような気がしてつらかったです。 │
│ 私は家に帰ってから、自分の部屋で今日の体育の時間、帰りの会で聞いたT君の日│
│記のことなど、いろいろ考えました。そのうちに、私は自分のしていたことが、だんだんお│
│かしなことと思い、はずかしくなりました。その気持ちは、もっともっとT君と同じように広│
│いきもちをもとうと思って、そして、私は広い気持ちをもてるようになったら、T君をこすぐ│
│らいの広い広い気持ちになっていきたいと思います。そして、みんながうるさい時注意 │
│してくれる人もすごいけど、体育のような時に注意してくれるT君を私はすごーくすごー│
│くほめてあげたいです。そして、こんどそんなことがあったら、私もT君に負けないで注意│
│してあげたいと思います。 │
└───────────────────────────────────────────────────┘
┌───────────────────────────────────────────────────┐
│ じんちゃんは大きい
T │
│ つい最近のことです。登(弟)が目が悪いために、夜マンガ本を読んではいけないとお│
│こられました。ぼくは、全ぜん目は悪くありません。それなのに、ぼくも駄目というので │
│す。学校のスポ少で、夜になって返ってきます。つまり、夜しか本はよめないのです。│
│ところが、それをじんちゃんは、駄目だと言うのです。ぼくは、じんちゃんをにくくなって│
│きました。
│
│ その後、ぼくたちにじんちゃんは、こう言いました。 │
│「おまえたちが目が悪くなったらどうするんだ。おまえらは、人生まだ長い。学校にも行け│
│なくなるんだ。人が食べているのも見えず、みんなからはおいていかれるんだ。オレは │
│おまえらのことを思っていっているのだ。」 │
│ それを聞いたぼくは、さっきじんちゃんをにくいと思ったぼくがなさけなくなってきた。 │
│じんちゃんは、ぼくらのために言っているのに。「母は大きい。」ににているなと思った。│
│やはり、一家の主じんは大きいと、今やっとわかった。 │
└───────────────────────────────────────────────────┘
┌──────────────────────────────────────────────────┐
│ 友達は大きい
Y・Y │
│ W益己くんは、私と給食当番の班が同じです。私は、Wくんはとてもやさしい人だと │
│思っています。ふつう多くの人は、軽いボールやおぼんを持ちたがるはずです。だから、│
│いつも、ごはんの時はごはんの入った入れ物が残ります。私だったら、いやだなぁと言っ│
│てしまうところですが、W君はちがいました。いやだと一つ言わずに、残った重いごはん│
│の入れ物を持ち出すのです。今では、自分から重いものをもってくれます。私は、そんな│
│W君を見ていて、自分はとっても小さく思えます。そんな私から比べると、W君はとって│
│もやさしく、大きい人だと思いました。 │
└──────────────────────────────────────────────────┘
┌───────────────────────────────────────────────────┐
│ Mさんは大きい
H・Y │
│ 二学期の学級委員をきめている時、なぜMさんをみんな選んだのか、それには理由が│
│あると思います。前にMさんは学級委員をしていてがんばっていたことを、みんなはよく│
│しっています。先生がいない時、たまにうるさくなることもありました。その時、Mさんは、│
│その人達に注意していました。自分でも、先生がいないんだから時には友だちとおしゃ│
│べりとかしたいと思ったかもしれない。でも、Mさんは自分ではがまんし、うるさくしている│
│人たちが自分からきちんと反省できるようになるまで注意し、教えてくれたのです。Mさ│
│んが注意してくれなかったら、だめなクラスになりかけていってしまったかもしれません。│
│そういう面から、みんなMさんを選んだのだと思います。少なくとも私はそうです。正しい│
│事をきちんとみんなのためにやりとげてくれる。だから私はMさんは、大きい心をもった│
│人なんだと思いました。 │
└───────────────────────────────────────────────────┘
┌─────────────────────────────────────────────────┐
│ H・Yさんは大きい
H・M │
│ ある日の学校の体育の時間、私にとっても勉強になることがおこりました。 │
│ 体育で先生が探してきたゲームをやった時のことです。私が入っているチームが点数│
│がついて負けていました。その時、私は点差がついていたので、やりたくない気分にな│
│り、ためいきをつきながら、
│
│「おもしろくないなー。」
│
│と言いました。その時、私のすぐとなりにいたYさんが、 │
│「点差がついたがらっておもしろくないなんて、そげたなかってだべや。」 │
│と言いました。その時、私は、なにか一人だけとりのこされたような、そんなつらい気持ち│
│になりました。まったくYさんの言ったとおりかってすぎますね。私は、Yさん は大きいと思│
│いました。この時、Yさんがこんなことを言わなかったら、きっとこの体育の時間を楽しく│
│やっていなかったにちがいありません。 │
└──────────────────────────────────────────────────┘
┌───────────────────────────────────────────────────┐
│ K佳君は大きい
W │
│ スポ少の日、あるていど練習をしてから、5年生と試合をしました。試合のと中でO君が│
│失敗したとき、K君は、
│
│「かんペン、おめぬげろは。とも君、入れ。」
│
│と言いました。急に言ったので、おどろきました。なぜだろうと思いました。H君もキーパ│
│ーで失敗してぬかされました。
│
│「しょちけん、おめもぬげろは。ゆっきの方がましだ。」 │
│と言いました。
│
│ それは、自分達のチームのことを思ってのことだと思います。わざときびしいことを言っ│
│て、今度から失敗をさせないようにしようとしているんだなあと思いました。 │
│ 時にはやさしくすることも大切だけど、きびしくして自分にたいする甘さをなくすることも│
│大切だと思いました。そんなことを思ってくれるK君を大きいと思います。 │
└──────────────────────────────────────────────────┘
「みんなの長所」から最後の学級文集「みんなの長所Ⅱ」を作るまで、子ども達は、その間に4冊の学級文集を作っている。
┌──────────────────────────────────┐
│ ① 『みんなの長所』 昭和63年11月1日発行 │
│ 友達の長所を書いたもの │
└──────────────────────────────────┘
┌───────────────────────────────────────┐
│ ② 5の1文集『学級文集』 平成元年4月3日発行 │
│ 一年間の出来事、一年間の思い出など │
│ ③ 5の1文集『修学旅行』 平成元年6月26日発行 │
│ 松島修学旅行の感想、短歌・俳句など │
│ ④ 6の1文集『メンチカツ』 平成元年11月11日発行 │
│ 一年間の出来事(一学期)、ぼくの夢・わたしの夢 │
│ ⑤ 6の1文集『コロッケ』 平成2年2月22日発行 │
│ 一年間の出来事(二学期)、詩・俳句 │
└───────────────────────────────────────┘
最後の学級文集を作るにあたって、子ども達へのアンケート
この結果、最後の文集は「みんなの長所Ⅱ」となった。
┌──────────────────────────────────────┐
│ ⑥ 6の1文集『学級文集』 平成2年3月31日発行 │
│ 一年間の出来事(三学期)、みんなの長所Ⅱ、 │
│ 二年間の思い出など │
└──────────────────────────────────────┘
Ⅴ.みんなの長所Ⅱ
前記「みんなの長所」の、①クラスのみんなから を再度6年生版として作った。
卒業を前にして、最後の学級文集となった。
この文集の『二年間の思い出』のなかに、子ども達は次のように書いている。
(卒業式の3日前に書いたもの。)
┌────────────────────────────────────────────────┐
│ 文集作りで学んだこと Y・K │
│ 5年生から、ずーっと今まで、たくさんの文集などを作ってきました。一番最初に│
│作った「みんなの長所」。私は、そのころ6班で、字を清書しました。その時は一回│
│やり直しました。私は、めんどくさがりやで、字が雑になって班の人にも先生にもめ│
│いわくをかけたと思います。そのことを思い出しながら6年生になり、たくさんの文│
│集の清書をしました。その時、その時によって、自分の気持ちが変わるもので、てい│
│ねいに書こうとするとうまくいきました。どうでもいいなんて、むしゃくしゃな気持│
│ちだと、やっぱりうまくいきませんでした。そして、「プリントゴッコ」みんなで楽│
│しくできたと思います。みんなで仕事をわけて楽しみながらできました。修学旅行の│
│思い出などの文集もみんなで作っていきました。時にはめんどうだなぁーとか思いま│
│したが、みんなでやるとだんだん楽しくなってきました。そのことが6年生になり、│
│いちだんとわかってきました。いっしょうけんめいに書いたものを読むと、みんなの│
│気持ちが通じてきます。みんなで文集作りをしたことは忘れられないと思います。そ│
│れは、楽しませてくれたみんなが忘れられないからです。最後に「みんなの長所Ⅱ」│
│ができ上がろうとしています。タイムカプセルと楽しみなきかくを出してくれた先生│
│みんなと楽しんできました。最後の「みんなの長所Ⅱ」には、みんなの一つ一つのこ│
│とがたくさんきざまれているのでしょう。 │
└─────────────────────────────────────────────────┘
文集に対する気持ちの変化が感じられる。そして、子ども達の文集に対する価値が高まるにつれ、学級のまとまりも確かなものとなってきた。
┌───────────────────────────────────────────────┐
│ いろいろ学んだ二年間 Y・Y │
│ 二年間の中でわかったことは、みんなのことです。「みんなの長所」でなど、みん│
│なのよいところがたくさんわかりました。「みんなの長所Ⅰ」の時は、よいところが│
│すぐわからず、迷うことがありました。けれどそれから一年の間、みんなのよいとこ│
│ろをいろいろ見てきました。やさしいところやまじめなところ、いろいろわかってき│
│たころ「みんなの長所Ⅱ」を作ることになりました。一年前のように長い時間迷うこ│
│とはなくなり、頭の中にすぐよいところ2・3個は思いうかびました。だれが考えた│
│のかわからないけれど、とってもうれしくなる本だと思います。‥‥(後、略)‥‥│
└────────────────────────────────── ──────────────┘
たくさん作ってきた学級文集の中でも「みんなの長所」は子ども達のもっともお気に入り。
┌────────────────────────────────────────────────┐
│ 二年間の思い出 K・M │
│ あの5年のころから今日までに、まなんだ事はいろいろありました。その中でも、│
│いちばん学んだことは3つあります。1つは、人のいい所をたくさんみつけられるよ│
│うになったことです。そして、それを「みんなの長所」という文集にまとめたことや│
│「学級文集」でいろんないい所を見つけたことでした。‥‥(後、略)‥‥ │
└────────────────────────────────────────────────┘
5年生のとき、友達が少なくわがままな子どもであった。「みんなの長所」を書くとき友達の長所を見つけられず、優しい・元気がある、ということをみんなに書いてきて、書き直しをさせた。「みんなの長所Ⅱ」では、しっかり友達の長所をとらえることができるようになっていた。ある意味で最も成長した子どもかもしれない。
┌─────────────────────────────────────────────────┐
│ みんなといっしょにわかったこと T │
│ この二年間で一番心に残ったことは文集作りです。いろいろ作りましたがその中で│
│もとくに最初に作ったみんなの長所がとてもよかったです。あれは何回よんでも全然│
│あきません。 │
│ 修学旅行の文集では、S君のがおもしろかったです。題が「こわかったかんらん │
│車」なのに全然かんらん車のことが書いていなかったなどの読んでみるととてもおも│
│しろいのです。 │
│ 最初はこんなことしないでさっさと帰りたいと思っていましたが、いざ出き上がっ│
│てみると、これは楽しいということがわかりました。それは、みんな同じだと思いま│
│す。しかし、楽しいというよりもっと大切なことがわかりました。それは、みんなで│
│最後までやりとうすということです。クラスの歌でもある通りみんなでやるすばらし│
│さだと思います。文集作りで楽しさ、最後までやるということがよくわかりました。│
│このことをいかしてもっとがんばりたいです。 │
└─────────────────────────────────────────────────┘
同じ様な事を書いた子どももいたが、ここまでくると、もう担任の考えをしっかりとららえている。文集作りの本当の目的を言い当てている。私は文集作りは何のためにしたのかと子ども達に考えさせた事はない。そこまで考えるにいたった子ども達の成長を強く感じた。
4.研究結果の考察
Ⅰ.「みんなの長所」
学級だよりに自分の書いた文が載る、それに驚いた子ども達。その子達に、みんなで文集を作ろう、と呼び掛けても反応は少なかった。5年1組、4月のことであった。
それから、日記指導を始め、年度末に作る学級文集の原稿を集めていった。
二学期、中だるみの時期に「みんなの長所」の作成に入った。保護者の文もお願いして時間をかけて取り組んだ。最初、「かわったことするなぁ~」と不思議がる子ども達も、「自分のいいところをみんなが見付けてくれる」と喜ぶようになってきた。楽しいことは本気でがんばる子ども達である。一つ一つ担任の指示に従い、グループで楽しそうに取り組んでいった。プリントゴッコに驚く者、自分の書いたイラストが印刷されて喜ぶ者。そして製本されたものを見たときの驚きの顔。そこから、子ども達の活動が活発になっていった。みんなで作りあげることの大切さが少しずつ分かってきたようだ。
友達の長所を書くときの学級の雰囲気はすばらしいものがある。これはみんなの長所を作り始めたとき子ども達に教えられたことである。誉められることはもちろんうれしい。自分が友達の長所を書いている、それと同時に、自分の長所を友達が今、書いている‥‥いつしか、友達の長所を書くことも楽しいことになっていった。
帰りの会などで、その日にあったよいことをなどを発表する時間をとったりしたことも
あるが、場当り的で一時的なものとなることが多かった。「みんなの長所」は文字となって残る。何度も繰り返して読み返せるという利点がある。事実、担任の私も自分の長所を読み、何度となく仕事の疲れを忘れさることができた。
なによりも『みんなの長所』作成を通して学級の変容が感じられた。お互いの長所を認め合い、仲間意識が高まり、好ましい学級集団へと成長していった。
(二学期末に行ったアンケート「みんなが良くなるために」では
①明るくなった ②仲良くなった ③まとまってきた と子ども達は言っている。)
6年生になっても‥‥‥
教室にある子ども達が家から持ってきた何十冊の学級文庫の本。自由読書にすると、子
ども達は必ずといっていいほど、「みんなの長所」を取り出して読んでいた。自分の所、友達の所、そして、笑顔。
「みんなの長所」の長所を読み上げていき、『私は誰でしょう』と、名前をあてるクイズをしたことがあった。2つ3つ読むだけで子ども達の中から名前が出てくる。本人よりもむしろ他の者のほうが詳しいという事が多かった。ワイワイ騒ぎながら、楽しい一時になる。昼休みなど、私の真似をして「みんなの長所」からクイズを出して遊ぶ姿も見られるようになった。友達の長所が子ども達の中にしっかりとけこんでいった。
Ⅱ.「~君、ありがとう」
「みんなの長所」完成あとであったので、子ども達の取り組みはスムーズにいった。
やはり、楽しくできた。
家庭訪問時、自分の部屋に大切に貼っている子どもがいた。普段、口の悪い子どもであ
るだけに、なおさらうれしかった。
Ⅲ.みんなが良くなるために
子ども達の見えないところでの活動を知るためにも、時々おこなっている。学級の実態
がよく分かるが、たびたびおこなうと価値がなくなる。
「みんなの長所」を境にしての学級の変化がよく現われた結果となった。
担任してからすぐにおこなった、「新しい班で、一緒になりたい人、できればなりたくない人」のアンケートと随分変化がみられた。
Ⅳ.「~は大きい」
子ども達の文にはっきりと表われているように、友達のすばらしい所がよくとらえられ
ている。「みんなの長所」よりは、はっきり高いレベルで友達を認めている。
この授業を続けることによって、さらに友達の長所を認め合う集団を築き上げることができたと思われる。当時は、どう生かしていくか、悩んだ末、時期を逸してしまった。
今後、新しい学級で「みんなの長所」を作成するとき、「~は大きい」を見越して指導していきたい。
Ⅴ.「みんなの長所Ⅱ」
「みんなの長所」のまとめであると同時に、2年間子ども達と一緒に作ってきた文集の
まとめでもある。
卒業を目の前にして作成したため、子ども達の感想を残せなかったのが残念であった。
5.最後に
まず、子どもの良い所を認めることから指導に入った。その指導を通して、ほめる指導
のすばらしさを感じた。友達の長所を書いているときの子ども達の楽しそうな笑顔、製本された「みんなの長所」を渡されたときのくずれそうな笑顔、そして自分のページをめくり読むときの静まり返るような沈黙がとても印象的であった。ほめられることだけでなくほめることも楽しいことなのだと子ども達から教えられた。
認めるということは、ほめることから始まる、と実感した。
第11回教育企画賞(平成2年度) 優良教育企画賞
主催 全国初等教育研究所 後援 株式会社教育同人社