はじめに
授業のオープンエンド化は、次の言葉に集約される。
│「わかったと思う」ことを踏台にして“わからないことからわからないことへ”進ん│
│でいくのが理解の真実なのである。 上田薫 (本論P.19より) │
「授業のオープンエンド化」 おそらくは聞き慣れない言葉であろう。
しかし、現代の学校において確実に取り入れられるべき学習形態であると教育実践者として直観している。なぜならば、多くの問いを残し授業を終え、授業と授業の間を生かす学習には、問題発見力、問い続ける力、過程を楽しむことなど、現代の学校に必要とされているそれら全てのことが含まれているからである。オープンエンドの授業で育った生き生きと追究する子どもたちの姿によって、きっとその意義が証明されるのではなかろうか。
この直観をやはり理論化して実践的確信の根拠を明らかにすることが必要である。本論の動機はここにある。
筆者が授業のオープンエンド化を知ったのは、その理論からではなく、その授業からであった。筑波大学附属小学校での有田和正の授業を初めて見たときの興奮は今でも忘れられない。あの授業場面との出会いが筆者の授業者としての出発点であり、振り返るに本研究のスタートであった。
学校現場に身を置く筆者にとって、理論よりも目の前の授業、取り分け子どもたちの生き生きとした姿、その笑顔を目標とできたことは幸運であった。追い求めるものがいつも子どもの姿であったからだ。
有田和正の追試を繰り返し、授業を開いて終えるには教材研究が必要であることを学んだ。しかし、それだけでは、子どもは動かなかった。子どもを育てること、集団を育てること、そこに隠された子ども理解・学級づくりの重要性に改めて気づかされることになったのである。(これらのことについては、本論の第5章に詳しく記した。筆者の拙い実践記録とその分析ではあるが、学校現場で働く筆者に課せられたものと思い、子どもの生の姿を具体性を保持して記述することを心がけた。)
本文では、まず、現代の子どもを取り巻くものについて述べ(第1章)、ただ今流行の問題解決学習における問題点について触れた(第2章)。
第3章で、片上宗二のオープンエンド化の類型をもとに授業のオープンエンド化について理論面からまとめ、第5章では、筆者の実践をもとに授業のオープンエンド化について具体的に述べた。
授業を支えるものは、授業時間以外の学校生活全般であり、子どもの家庭生活を含めた全てである。その意味から言えば、授業のオープンエンド化は、実は、その授業形態だけでは語れない。筆者が学校現場で授業のオープンエンド化を行うにあたって如何に取り組み、拙いながらも子どもと共にどのように築き上げてきたか、その経過をふまえながら、授業のオープンエンド化を支える条件を第4章、第6章にあげた。
目次
はじめに ───────────────────────────── 1
第1章 現代の子どもを取り巻くもの
第一節 塾の学習に隠された日本文化 ───────────────
2
第二節 キレル子どもたちの背景 ────────────────── 5
① ストレスの中で暮らす ────────────────── 5
② 規準不足 ─────────────────────── 6
③ 自己愛への欲求不足 ────────────────────
7
④
燃え尽き症候群 ───────────────────────
8
第三節 生きる力 ──────────────────────── 8
① 自己教育力と生きる力 ────────────────────
8
② 中央教育審議会報告に対する私見 ───────────────
9
③
対象との対話 ────────────────────────
11
第2章「問題解決学習」に迫られる問題点
第一節 藤井千春による「問題解決(的な)学習」の問題点 ───── 13
第二節 筆者による今日的な「問題解決(的な)学習」への疑問 ─── 15
第三節 現代の学びに対する諸指摘 ──────────────── 18
① 上田薫「わからないことからわからないことへ」 ────── 18
② 佐伯胖「真実性の実感」
───────────────── 20
第3章 オープンエンドの授業
第一節 授業を「開く」とは ─────────────────── 25
第二節 片上宗二によるオープンエンド化の類型 ───────── 29
① 授業の出発の仕方から ─────────────────── 30
② 問いのもたせ方から ────────────────────
31
③ 授業設計から ────────────────────────
31
第三節 授業の連続性を重視したオープンエンド化 ───────── 32
第4章 授業のオープンエンド化を支える条件①
第一節 日記の書かせ方とその役割 ──────────────── 37
① 最初の一ヶ月の日記の書かせ方
────────────── 38
② 日記に授業のことが書かれるようにしむける ────────
41
③ 年間の見通し
────────────────────── 42
第二節 日記の発表の場としての「学級通信」 ─────────── 43
第三節 日記への赤ペンの入れ方 ───────────────── 45
第四節 日記帳 ─────────────────────────
47
第5章 授業実践から………筆者の実践から
第一節 教材が子どもを動かす……<5年生での実践> ────── 49
① 授業から
─────────────────────── 49
② 授業後の追究から
─────────────────── 51
③ その後の追究から
─────────────────── 55
④ 様々な角度からたねの追究を導く
──────────── 57
⑤ 実践を振り返って
─────────────────── 59
⑥ 教材
───────────────────────── 60
第二節 思考の往復運動の意義……<3年生での実践> ────── 68
①
実践から
─────────────────────── 68
② 実践を通して
───────────────────── 120
③ その後の追究
──────────────────── 121
第三節 話し合い活動の意義………<4年生での実践> ────── 136
① 「東根のさくらんぼ」の実践か ─────────────
137
② 実践を振り返って
────────────────── 186
第四節 実践をふまえて ─────────────────── 193
第6章 授業のオープンエンド化を支える条件②
第一節 授業のオープンエンド化、その授業づくりに隠された条件 ─── 195
第二節 授業づくりは学級づくり ──────────────── 197
第三節 学び合う集団づくり ────────────────── 200
① クラスは明るく ────────────────────
200
② 教室でのありのままの姿を家庭に知らせる ──────── 201
③ 教師が作るべきクラスのルール ───────────── 205
④ 子どもの動きに合わせて ──────────────── 208
⑤ 授業と生活のつながりを大切に ───────────── 210
⑥ 子どもの活動への価値付け ───────────────
212
⑦ 子どもの姿 ──────────────────────
216
⑧ 日記
───────────────────────── 219
⑨ ほめることと叱ること ─────────────────
221
⑩ 当番の話
─────────────────────── 224
最後に ───────────────────────────── 227
参考文献
──────────────────────────── 229